2022年8月26日 (金)

羅生門と去年マリエンバートで

 今日8月26日は何の日だろうと調べてみたら,1950年のこの日黒澤明監督の「羅生門」が封切られた日なんだそうです.

 この映画は黒澤監督の代表作の一つとされるほか,翌1951年のベネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞するなど,世界的に高い評価を受けた最初の日本映画とされています.この映画の特徴は登場人物それぞれが自分視点で自分の都合で話すため,視聴者はなかなか真実が判らないような造りになている点です.これは当時非常に斬新な手法だったため海外の映画製作者にも大きな影響を与えました.そうした「羅生門」の影響を受けたとされる映画の一つが「去年マリエンバートで」です.監督はアラン・レネ,フランスのヌーベルバーグの監督のひとりとして知られています.

Marien  この作品が作られたのは1960年,私が生まれる前です.ですから劇場で実際に観た経験はなく初見はレンタルビデオでした.この作品の存在を教えてくれたのは大学時代の友人で,「変わった映画があるから観てみよう」と誘われてビデオを借りて見たものです(当時友人はビデオデッキを所有していなかったので,私の部屋に入り浸って映画を見ていました).

初めてこの作品を見た感想ですが,ただ

 ……

 でした.「映画にはストーリーが存在する」というのが常識であるとすれば,まさに非常識、何がなんだかわからないうちに終わってしまったという感じでした.

 豪華な宮殿(みたいなところ)に女が立っています.そこに男がやってきて

「去年私はあなたに会いました」

 みたいなことを言います.でも,女はそんなこと覚えていません.しかし男は,「そんなはずはない,絶対会っている」といいます.で,そんな二人のやり取りを見ている別の男がいます.ただそれだけです.それだけのやり取りがひたすら形を変えて繰り広げられるんです.

 結局その後なんどか繰り返し見ましたが,消化不良のままそのままになっていたのです.

 しかし自分も歳を重ね,各種情報が手に入るようになった後から改めてこの作品を見直すと,当時は気づかなかった様々な仕掛けが見えてきて,改めて名作だったんだ(笑)と感心したものでした.

 要するにこの作品は,ひとつの事象を複数の人物(この場合は女と男と,もうひとりの男)の視点それぞれから見た映像として別々に撮影し,それをバラバラにしてつなぎ合わせた構造になっていたのです.撮影に当たって,これから誰の視点による絵を取るか,役者にも知らされず,役者自身も混乱したそうです.おそらくアラン・レネ監督のみ一人ほくそ笑んでいたんでしょう(笑).

 そんなことを考えた2022年8月26日でした.

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