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2022年8月16日 (火)

帰国難民

 新型コロナウイルス感染症の世界的な流行が始まって2年半,この間ウイルスは当初の武漢株から2021年春のアルファ株,同年夏のデルタ株,さらには2022年初めからのオミクロン株と変異してきました.特にオミクロン株に置き換わって以降は感染力は強いものの,従来株に比べて(ワクチン接種の効果も含めて)重症化率や死亡率が低下していると考えられており,各国ではそれまでの制限を撤廃する動きも見られるようになりました.それに伴い諸国間の往来も戻りつつあり,多くの国では入国時のPCR検査なども行われなくなりました.日本の大手旅行会社も徐々に海外旅行商品を出すようになっています.もちろん個人で航空券を購入しての旅行も可能でそうした旅行者も増えてきているようです.

 ただ一方で問題となっているのは,旅行先で感染してしまったケースです.現在日本政府は入国時の検査は行っていないものの,出国72時間以内に実施された陰性の検査証明を検疫所に提出する決まりになっており,これがないと航空会社は日本行きの便への搭乗を拒否することになります.このため旅行の最終段階で陽性が判明してしまった場合,帰りの飛行機に乗れないことになってしまいます.ここで重症化すればさらに大事ですが,幸い軽症だったとしても翌日すぐに陰性化することは稀であり,団体旅行の場合は離団したうえで少なくとも数日から一週間さらなる現地滞在を余儀なくされます.追加の滞在費の負担も大きいですが,帰国後仕事が入っていた場合などは職場への連絡や調整も必要になります.慣れない海外で,しかも病を抱えてこうした事態になるのは非常に辛いでしょう.

 それでも数日で無事陰性化すればいいのですが,コロナの場合症状軽快後でもPCR検査がなかなか陰性化しないケースもあります.この場合は陰性化するまでさらに帰国が延びることになります.最近はこうした症状は軽快したのに,検査が陰性化しないため飛行機に乗れない帰国難民が増えているのだそうです.

 ちなみに日本の在外公館では,こうした帰国難民対策として症状軽快後も複数回検査で陽性となってしまったケースで,真にやむを得ない場合に「陰性(検査)証明書が取得困難であることを確認する」旨を記した領事レターを発行することにしています(在フィリピン日本国大使館のケース).該当者は陰性の検査証明の代わりにこれをを提出することで飛行機に搭乗することになりますが,領事レターはあくまでも在外公館が航空会社に「この人は症状は軽快しており他人に感染させる危険性は低いのでよろしく頼む」と配慮をお願いする書類に過ぎないため,実際に飛行機に乗れることや日本に入国できることを保証するものではありません(乗せるかどうかの最終判断は航空会社ですし,入国の可否判断は入国審査官となります.もっとも日本人である場合は日本の空港に到着さえできれば法的には入国拒否にはならないハズですが).

 この領事レター,旅行者の間でも結構知られるようになったらしく,在外公館への問い合わせも増えているようです.しかし先述のようにこれはあくまでも真にやむを得ない場合にのみ発行されるものです.旅行者の中には早く帰国したい一心からか,1回陽性になっただけの場合や,まだ症状が軽快していないにもかかわらず領事レターの発行を希望する人もいるそうです(この辺は日本渡航医学会のメーリングリストで話題になっている).一部の人たちによるルールを逸脱した要請が在外公館に多数寄せられ,業務を圧迫する事態になるのは厳に慎まなければなりません.この辺のルールが変わるまでは海外旅行はまだ厳しいなと思ったのでした.

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