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2021年9月16日 (木)

脇付

 その世界では当たり前のように使われているものの,一般には知られていない慣習というものがある.例えば病院関係で医師が他の医師に宛てて書かれる文書,いわゆる診療情報提供書などの宛名を見ると

〇▲病院 内科 云野誰兵衛先生 御侍史

 なんて風に書かれていることが多い.

 そもそも先生という言葉がすでに尊敬を表した用語であり,それで十分にも思えるが,医者の世界では大学教授から初期研修医までみんな先生と呼ばれるので,先生のインフレ化が激しく,敬意を示すにはさらに一工夫必要であると考えられているらしい.

 こうして先生という宛名をさらに飾り立てるために用いられるのが脇付けと呼ばれるものであり,先に挙げた御侍史(おんじし)もそうした脇付けの一つである.侍史というのは秘書というような意味の言葉であり,「お忙しい先生に直接お手紙を差し上げるのは申し訳ないので秘書の方にお渡しします」という意味がある(もっとも大多数の医師には個秘書などいないので,実際には御侍史と書かれた手紙も普通に直接医師の手元に来るが 笑).

 この”御侍史”が最もよく使われている脇付けだが,そのほかに”御机下(おんきか)””玉案下(ぎょくあんか)”というのもある.机下は文字通り机の下で,「先生はお忙しいでしょうから,机の下にでも置いといてお時間のある時にご覧ください」というニュアンスである.一方の玉案下であるが,玉は宝玉のことで案下は机下と同じで机の下の意である.すなわち「先生の宝玉で飾られた立派な机の下に置かせていただきます」というニュアンスで,先の御机下をさらにグレードアップさせた感じである.なにもそこまで卑屈にならなくても… と感じるのだが,この虚飾こそが医師の世界の醍醐味ともいえそうだ.

 自分のかかりつけ医から大きな総合病院宛ての紹介状を持たされた際にはぜひ表書きの先付にも注目してみてほしい。

PS 今日職場で話題になったのだが、御侍史,御机下は本来侍史,机下のみで御は余計で必要ないという議論が出た.普段使いは御付きなのでどういうことだろうか.

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