世界禁煙デー
今日5月31日はWHO(世界保健機関)が定めた世界禁煙デーです.制定されたのが1989年ということなので,すでに30年以上の歴史があります.なぜ5月31日なのかは調べてみた限りではわかりませんでした(国際記念日なので語呂合わせは考えられませんし,タバコに関連した誰かの誕生日というわけでもないようです).
かつては大人のたしなみの一種,嗜好品とみなされていた喫煙ですが,その健康への害は大きく,虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)や脳血管疾患(脳梗塞,脳内出血)の独立したリスクファクターとなるほか,慢性閉塞性肺疾患(肺気腫等)や各種悪性新生物(肺がん,食道がん,舌がん等)の原因ともなります.これは吸っている本人はもちろんですが,周囲の人が煙を無意識に吸い込んでしまう(受動喫煙)ことによる害も知られています.依存性もあり,これが喫煙者がなかなかやめられない理由にもなっています.
受動喫煙はともかく,好きで吸っているんだから本人の自由ではという議論もありますが,喫煙によって健康被害が生じると,それに対して多くの医療資源が投入されることになります(しかもそのほとんどは健康保険で).それらの経費は私たちが払っている税金や保険料から賄われるわけですから,けっして他人ごとではありません.最近の生命保険は喫煙者か非喫煙者かで保険料に差がつくようになっていますが,今後は健康保険にも広がるかもしれません.
依存性のある危険な物質というと,大麻や覚せい剤などが知られていますが,正直言うとタバコの害はこうした薬物に引けを取りません.にもかかわらず前者が法律で厳しく規制されているのに,後者が本人の自覚に任されているのは,歴史が長く文化として根付いていること,生産者など関連業界が無視できない規模で存在することなど社会的な理由だけだろうと思います.
そんな喫煙習慣ですが,昭和の頃は職場で吸うのは当たり前,飲食店も基本吸い放題でした(私が小学生の頃は教室で吸ってた先生もいた).しかし平成14年に健康増進法が制定され,特に受動喫煙の防止の面から規制が厳しくなり,現在は公共の場は一部を除き基本的に禁煙になりました.平成の初めごろは自分が海外に行くようになった頃は,「日本は喫煙者に甘いなぁ」と思ってましたが,令和の時代の今,日本の喫煙対策は世界的には厳しい部類になったと感じます(東南アジアやアフリカ,南米はもちろん,基本的にヨーロッパの多くも日本より緩いです.もちろん例外はあります).
実は自分もかつては喫煙者でした(笑).しかし2006年にとある事件をきっかけに禁煙に踏み切り,成功しました.当時は救命救急センターを併設する地域の基幹病院に勤務していたんですが,ある晩自分と同い年の男性が脳卒中で運び込まれてきたのです.その方はバリバリの喫煙者でした.それまで漠然と高齢者の病気としか認識していなかった脳卒中が急に身近に感じられた瞬間でした.もちろんその方は高血圧や糖尿病などもあってリスクの塊のような症例ではありましたが,内心「これはマズい」と思い,持っていたタバコをゴミ箱に投げ捨てました.
当時の病院は職場内の一角に職員用の喫煙場所があり,自分もそこで吸っていました.事件の翌日私はみながたむろする喫煙所を訪れ,「自分は禁煙する!」と大々的に宣言しました.周囲の反応は「え~、できんの?」という感じでしたが,当時は職場での喫煙所はここしかなく,そこに行かなければ吸うことはできません.結局そこに行って「やっぱりダメだったじゃん」と言われるのがシャクだったため,絶対行くもんか!と誓って頑張っていたら禁煙できていたという感じです.当時ちょうどJRでも禁煙が進んでいて,東北新幹線も全車禁煙になるなど,ちょうど喫煙できる場所がどんどん減っていたというのも成功の要因かな感じます.
(写真)喫煙者時代の貴重なショット(2003年スバールバル諸島にて)
以来14年,今ではまったく吸いたいと思わないレベルになっています.そういえば,喫煙者時代は外来で患者さんに「タバコはできればやめた方がいいですね」と,歯切れが悪かったんですが,禁煙成功後は「タバコ? 絶対ダメですね」と偉そうに言えるようになりました(笑).
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