今日はキリスト教の西方教会における聖金曜日です(使用する暦の関係で東方正教諸教会では来週).イエス・キリストが十字架上で受難したことを記念する日です.新約聖書のマタイ福音書27章1節~61節,マルコ福音書15章全節,ルカ福音書22章1節~65節,ヨハネ福音書18章1節~27節の部分です.
マタイ福音書の記事によると,前夜ゲッセマネの園で捕らえられ大祭司の尋問を受けたイエスはこの日の朝,総督ピラトの官邸に連行され,ここでの裁判の結果十字架刑が言い渡され処刑されました.この出来事の舞台となったエルサレムにはこの日,イエスが歩いたとされる道が設定されており,ヴィア・ドロローサ(苦難の道)と呼ばれています.私も2016年の秋にイスラエル旅行に行った際に歩いてきました.
(図)エルサレム旧市街図
ヴィア・ドロローサは全部で14のステーションから構成されています.エルサレム旧市街北東部のライオン門からほど近いところの,総督ピラトの官邸があったとされる場所をを第1とし,市街を西に向かいながら、かつてゴルゴダの丘があったとされる聖墳墓教会まで続いていきます.
第1ステーション ピラトの官邸跡で現在はムスリムの学校になっています.
(左)ライオン門,(右)ピラト官邸跡
第2ステーション イエスが十字架を背負わされローマ兵によって鞭打たれたとされる場所です.今は鞭打ちの教会が立っています.
(左)鞭打ちの教会,(右)内部のステンドグラスもその様子が
(写真)エッケ・ホモアーチ
そこから少し西に行ったところにエッケ・ホモ教会があります.これは「この人を見よ」の意でピラトがイエスをさして群衆にそう呼びかけた記事に由来します.ここには十字架も置かれていました(毎週金曜日の午後,フランシスコ会の修道士が十字架を持って実際このルートをたどるそうです).
(左)エッケホモ教会,(右)十字架があります
第3ステーション イエスが最初につまずいたとされる場所です.ただこのエピソードは聖書にはなく他の伝承によるものです.現在ここにはアルメニア正教の教会が建っています.
(左)第3ステーション,(右)教会内部
第4ステーション 十字架を背負ったイエスをマリアが目撃した場所となっています.ここも現在はアルメニア正教の教会が建っています.教会内部の古い床にはビザンチン時代のモザイクがあってそこにはマリアのサンダルが描かれています.
(左)アルメニア正教会,(右)教会内部
第5ステーション 兵士たちがイエスの十字架をキレネ人のシモンに担がせたとされるポイントです(マルコ福音書の15章に記事あり).ここの壁にはイエスが触れたとされる岩があって,歴史上数えきれない巡礼者たちが触ったため,かなりすり減っています.
(左)第5ステーション,(右)イエスが触れたとされる壁
第6ステーション ベロニカという女がイエスの顔をハンカチで拭ったとされる場所,ベロニカはマルコ第5章においてイエスの服に触れたことで血の病が癒された女とされています.今はギリシャ正教の聖堂が建っています.
(左)第6ステーション,(右)聖堂内部
第7ステーション イエスが2度目につまづいたとされる場所です.当時ここにイエスの罪状が掲げられたとされています.ちなみに1世紀当時エルサレム市街はここまでで,ここに市外への城門があったとされます(今でこそゴルゴダの丘とされる聖墳墓教会は市内にありますが,穢れを極端に嫌うユダヤ教世界において市内に処刑場があったとは考えにくいと言われています).
(写真)第7ステーション
第8ステーション イエスがエルサレムの娘たちに語ったとされる場所です(ルカ23章).ここにもギリシャ正教の教会が建っていて,壁には十字架が描かれています(右側の写真の左端).
(左)第8ステーション,(右)壁に十字架が
第9ステーション イエスが3度目につまづいた場所とされ,ここから先が当時ゴルゴダの丘があったとされる地点に建つ聖墳墓教会になります.

(左)第9ステーション,先に見える入り口はコプト教会です.(右)聖墳墓教会のドーム
(写真)聖墳墓教会入り口
聖墳墓教会はキリスト教における一大聖地であり,今でもギリシャ正教・アルメニア正教・コプト教・シリア正教・エチオピア正教,そしてローマカトリックが変な言い方をすれば仲悪く共存しています.特に教会の入り口のドアをどこが管理するかでもめるため,現在ここのカギはイスラム教徒が管理しています.ちなみにエチオピア正教はオスマントルコの時代からここを守ってきた重要な教会ですが,19世紀以降に起こった他教会との勢力争いに敗れ,聖堂は外にひっそりと建っています(言われなければ見過ごすほど).
(左)ヘレナの聖堂のドーム,(右)エチオピア正教の教会入り口
(写真)エチオピア教会内部
今の聖墳墓教会を聖地として整備するのに重要な貢献をしたのが4世紀のローマ皇帝コンスタンティヌス1世の母ヘレナです.教会入り口には彼女の聖堂のドームがあります.先日この聖墳墓教会も今回の新型コロナウイルスの問題で閉鎖されたというニュースがありました.
第10ステーション 聖墳墓教会に入り階段を登った先,イエスが衣をはぎ取られた場所とされています.今はカトリックの小さな聖堂になっています.
(左)第10ステーション,(右)小さな聖堂です
第11ステーション イエスが十字架に打ち付けらえた場所とされています.大勢の巡礼者で賑わっています.

(左)第11ステーション,(右)大勢の巡礼者たち
第12ステーション イエスが息を引き取った場所,まさにゴルゴダの丘の十字架が立てらていた場所とされています(そのポイントには星が描かれていて,そこに触れようとする人々が行列を作っています).

(左)第12ステーション,(右)十字架のまさにポイント
第13ステーション マリアがイエスの遺骸を引き取ったとされる地点です.今はひっそりと祭壇が置かれています.
(写真)第13ステーション
第14ステーション 最終ステーションです.ここはイエスが埋葬されたとされる場所です.巨大なドーム内に小さなドームがあってその内部に石棺があります.最大の聖地のためたくさんの巡礼者で長い行列ができています(自分が行ったときは30~40分で入れたんですが,ガイドさんによるとこれはかなり短い方でひどいときは2~3時間待ちになるとのことです).受付の司祭さん(?)に5~6人ずつ中に誘導されて参拝するんですが,30~40秒ほどでさっさと出されます(そうでないといつまでもここにいる人が現れてきりがないのでしょう).この日は写真撮影はダメと言われました.もっともキリスト教の教義ではイエスは復活しますから別にここに遺骸があるわけではなく,そのためこの聖堂は復活聖堂と呼ばれています.
(左)大ドームの中に小ドームがあるマトリョシカ状態,(右)やっぱりギリシャ正教風です
石棺のある聖堂の向かいには殉教聖堂というギリシャ正教の華やかな聖堂があり,ちょうどミサが行われていました.聖堂の近くにはイエスの遺骸に香油を塗ったとされる石があり,ここでもたくさんの巡礼者が手を触れていました.

(左)殉教聖堂,(右)塗油の石
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