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2019年11月15日 (金)

歌劇「ドン・パスクワーレ」

Img025  芸術の秋です.思うに秋から冬にかけてオペラなどのコンサートシーズンが始まるのは,日照時間と関係があるように思います.特に緯度が高いヨーロッパでは夏は9時ごろまで明るい一方で,冬になると日照時間は極端に短くなります.そんな長い夜(松山千春ではない)の楽しみとしてコンサートが盛んになったのではということです.そんな秋も深まった今週の月曜日,新国立劇場で公演中の歌劇「ドン・パスクワーレ」を観劇してきました.なかなか上演される機会の少ない作品ですが,2年目を迎えた大野和士芸術監督がいよいよ本気を出してきたシーズンの2作目ということで期待して出かけました.

 このオペラは19世紀前半のイタリア・オペラを代表する作曲家の一人であるドニゼッティによる喜劇作品です.資産はあるがケチな老人(ドン・パスクワーレ)が若い娘と結婚しようと画策するものの,周囲に邪魔され揶揄されるという内容です.ドニゼッティの喜劇といえば「愛の妙薬」が有名ですが,やや牧歌的な雰囲気を醸し出している「愛の妙薬」に比べると,この「ドン・パスクワーレ」の方がより古典的なオペラ・ブッファらしい内容です(ロッシーニみたいな感じ).しかしながら作曲年代でいえば,前者が1832年に作曲されたのに対し,後者は1842年(初演が1843年)とドニゼッティとしては晩年の作品です.19世紀イタリアの大作曲家ヴェルディがすでに作曲活動に入っている時期であり,「ドン・パスクワーレ」が作曲された1842年は,奇しくもヴェルディ最初の傑作である「ナブッコ」が作曲された年でもあります.

 そんなオペラ史の転換期にどうして古風なオペラ・ブッファをと感じます.しかしこの作品,一見すると単に身の程知らずの老人がやっつけられて終わるというセビリアの理髪師のバルトロ的なノリのように見えながら,作品をよく聴くとドン・パスクワーレの哀愁や彼をやっつける娘(ノリーナ)の微妙な情が表現されるなど,ロッシーニ時代とは違う,革命を経て人間性が重視されるようになった時代の作品であることがわかります.

Img_5824  で,実際の演奏ですがタイトルロールのドン・パスクワーレを歌ったロベルト・スカンディヴィはヴェルディ作品にもよく出演している方ですが,本作ではまさにブッフォ・バスの重厚な歌がさすがでしたし,小悪魔的なノリーナを歌ったハスミック・トロシャンも伸びやかな若さを感じさせる声でした.そして自分的にはエルネスト(ドン・パスクワーレの甥)役のマキシム・ミロノフの軽い,まさにレッジェーロという感じの声が良かったです.前述のようにパスクワーレとノリーナがやや情を表現する役だけに,エルネストの若い素朴な明るさは彼らとの対比がしっかり出ていてよかったと思います.また3幕のみの登場でしたが,新国立劇場合唱団はやっぱり迫力が凄いです.

 とまあ,とりあえず満足したドニゼッティオペラでした.

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