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2019年9月10日 (火)

狂犬病ワクチン

 狂犬病という名前を聞いたことがないという人は少ないと思うが,それがどんな病気なのかを知っている人は案外多くないかもしれない.字面だけを見れば,”犬が狂う病気”ということになるが,これは狂犬病の一面をとらえているだけにすぎない.

 狂犬病は狂犬病ウイルスによって引き起こされる感染症である.”犬”という文字が付いており,一般には犬に噛まれて発症するイメージがあるが,実際には犬に限らずすべての哺乳類を介して発症する可能性がある.典型的には狂犬病ウイルスに感染した犬に噛まれた咬傷からウイルスが体内に侵入し,末梢神経を伝わって中枢神経(脳、脊髄)に至り発症する.症状としては不安感,水を恐れる恐水症状,興奮や錯乱症状から全身の麻痺に進み,最終的には呼吸障害を起こして死に至る.発症すれば死亡率はほぼ100%という極めて危険で重要な感染症である.

 ただ日本は世界でも数少ない狂犬病清浄国であり,国内で犬等に噛まれて狂犬病を発症した例は1956年(昭和31年)を最後に報告されていない(海外で噛まれて帰国後に発症したものが2019年までに3例あり).この辺が知名度のわりに病気の実態が世間に知られていない理由かと思われるが,海外に目を向けるとアジアやアフリカを中心に毎年5万人以上の人が狂犬病で亡くなっているという現実があり,これがいかに恐ろしい病気であるかを実感させる.

 日本は島国で,犬等のウイルス保有個体が外部から侵入しにくい地理的条件にあるとはいえ,国際的な物流の増加等からも将来にわたってこの状態を維持できるという保証はない.狂犬病は発症するれば死亡率ほぼ100%だが,ワクチンによる予防ができる.国内の清浄を保つために一義的に重要なのは動物に対する定期的なワクチン接種(これは狂犬病予防法で義務付けられている)であるが,人間の場合でも必要に応じてのワクチン接種が行われる.主として噛まれた後に行う暴露後接種であるが,狂犬病汚染国に渡航し動物などとの接触が予想される場合などには暴露前接種が行われることもある.

 こうした狂犬病ワクチンで日本国内に幅広く流通していたのが,KMバイオロジクスが製造しMeiji Seika ファルマが販売する組織培養不活化狂犬病ワクチンである.国内承認が1980年という歴史ある製品なのだが,先日販売元からこんな案内が来た.

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 いろいろ書いてあるのだが,どうやら同製品が今後欠品になり販売終了するとのこと… 狂犬病ワクチンなんてこれから需要が増えることはあっても減ることなんかないだろうに! と思ったが,一方で最近

 狂犬病ワクチン「ラビピュール筋注用」新発売のお知らせ

 こんな話題も出ていた.これは大手製薬メーカー,グラクソ・スミスクラインが今回新しい狂犬病ワクチンを発売したというお知らせである.これにより国内でのワクチンが2種類になり選択肢が広がるなと思った直後の今回の欠品情報,文面には「諸事情ご賢察の上、何卒、ご理解とご協力を~」と書いてある.ははぁ、諸事情というのは「今回出たGSKの新薬にシェアを奪われそうだから,さっさと撤退するけど許してね」という意味なのかと邪推したのだった.

 

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