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2019年8月 3日 (土)

8月といえば

 8月といえば日本では先の大戦を考える月でもあります.自分自身が戦記に興味を持ったのは中学生時代でした.それ以前から(当時の)子供向けに書かれた戦車や軍艦などの解説本を読む機会はあったんですが,この手の本は「世界一の戦闘機零戦!」,「世界最大の戦艦大和!」など景気のいいことばかりが書かれていて,子供の頃は無邪気に読んでいました.ただ長ずるに従い「そんな無敵な兵器を持っていた日本がどうして戦争に負けたんだろう」という素朴な疑問がわいてきて,少し勉強してみようと思ったわけです.当時はインターネットなどという便利なものはなかったので,調べるとすれば当然書籍ということになります.本屋さんに行ってあちこちのコーナーをめぐり,しかも中学生の乏しい小遣いも考慮しつつ購入したのが,伊藤正徳著の「連合艦隊の最後」,「帝国陸軍の最後」(全5巻)でした(当時の価格で1冊約350円なので6冊合計で2000円強と中学生でもなんとかなる額だった).

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(写真)帝国陸軍の最後全5巻(第3巻死闘編のみ表紙がないのは,一番読み込んでボロボロになっている巻だからです)

 このうち連合艦隊~は海軍の,帝国陸軍の~は陸軍の戦記です.両方購入したんですが,当時はすでに真珠湾攻撃やミッドウェー海戦など海軍関係は少し知識があったので,まずは陸軍の方から読み始めました(このシリーズ,今は光文社文庫から出ていますが,当時は角川文庫からだった).

 所々難しい箇所はありましたが,著者の文章は非常に明快で読みやすく,あっという間に読んでしまった記憶があります.太平洋戦争の陸戦史を5巻に分け,それぞれ

「侵攻編(マレー上陸戦からシンガポール,フィリピン,ジャワ,ビルマ攻略,そして昭和17年夏から秋のモレスビー攻略戦まで)」

「決戦編(ガダルカナル戦,ニューギニア戦,ビルマの第一次アキャプ会戦,大陸打通作戦等昭和17年後半から18年の戦闘)」

「死闘編(サイパン,グァム等マリアナ諸島の戦い,インパール作戦,レイテ戦など主に昭和19年の戦闘)」

「特攻編(ルソン戦,硫黄島戦,沖縄戦など昭和20年6月まで)」

「終末編(ビルマ・中国での戦闘,対ソ戦,B29との空戦,終戦への流れ)」となっています.

 著者は元々海軍記者で,軍関係の知識が豊富な方です.いろいろな方面に取材して本書をまとめたわけですが,そのスタイルはとにかく闇雲に戦争は悪だと批判するわけでも,日本は正しかったと美化することもなく,硬直した人事指揮系統やずさんな作戦に対しては厳しい目を向ける一方で,命令に従い理不尽な状況下で戦い亡くなった人たちへの敬意は忘れないというものでした(軍記者だったことから全体としてはやや軍に好意的な印象はありますが).ともかくガダルカナル戦とかレイテ戦などはこの本で初めてその実相を知りました.昭和30年代に書かれたものなので,現代の定説とはやや異なる点はありますが,戦史の入門書としては簡潔にまとまって非常に優れた本だと思います(分量も多いと感じる向きもありそうですが,むしろ膨大な太平洋戦争陸戦史をこれだけコンパクトにまとめたのは凄いかと).後に出た高木俊朗氏のインパールや,大岡正平氏のレイテ戦記などの名著でもこの伊藤氏の戦記が引用されている箇所があることからも,後世に与えた影響が非常に大きい著書だったことがわかります.

 そんな伊藤正徳氏の著書,この夏は原点に返って読んでみようかと思っているのでした.

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