楽劇「神々の黄昏」
秋は芸術の季節です.特に世界のオペラハウスは秋に開幕し翌年の春まで公演が行われるパターンになっています.東京の新国立劇場もその例にもれず,だいたい10月から翌年6月までがシーズンになります.そして2017/2018年のシーズンがいよいよ始まりました.その最初の演目がワーグナー作曲の舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」の第3夜,「神々の黄昏」でした.私も10月4日の公演に行ってきました.
新国立劇場の現在の音楽監督は飯守泰次郎さん,ワーグナーのスペシャリストです.2014年に同劇場の音楽監督に就任した時から,これは指環をやるための招聘だということは明らかでした.最初の2014/2015のシーズンは「パルジファル」の新演出と「さまよえるオランダ人」の再演版のスタートでしたが,翌2015/2016年のシーズンから新演出の指環が始まり,同年に「ラインの黄金」が,翌2016/2017年に「ワルキューレ」と「ジークフリート」が上演され,今回ついに「神々の黄昏」に至ったわけです.
舞台祝祭劇ニーベルングの指環はワーグナーがその構想から完成まで実に30年近い年月を費やした大作です.本作は全体の総上演時間が15時間を越えるため,一気に上演することは現実的ではありません.全体は4つの部分からなっており,それぞれ序夜「ラインの黄金」,第1夜「ワルキューレ」,第2夜「ジークフリート」,第3夜「神々の黄昏」と名づけられています.
今回の第3夜「神々の黄昏」は,前作「ジークフリート」でブリュンヒルデ(神々の長ヴォータンの娘にして元ワルキューレ)と結ばれたジークフリートの旅立ちから,ギービヒ家の当主グンターの異父弟ハーゲンの姦計による彼の死,そしてその後に続くブリュンヒルデの自己犠牲による魂の救済と神々の世界の終焉が描かれます.
演奏時間は4時間半以上!(休憩除く)と全4作中最長ですが,鑑賞する側にとっての疲労度はそれほどではありません(私のような普段はイタリアオペラを愛好する者にとっては.根っからのワーグナー好き,いわゆるワグネリアンにとっては一番人気はワルキューレです).理由としては,登場人物が結構多く(特に前作ジークフリートにくらべて),人間も登場するためそれなりに人間ドラマが展開されること,合唱が初めて登場し華やかさが増すこと(実は全3作までは一般のオペラでは定番になっている合唱が全く出てきません)があると思います.
しかし音楽はあくまでもワーグナー的で濃密です(笑).ワーグナー作品が他の,特にイタリア系のオペラと違う点はイタリアオペラが歌手の美しいアリアやアンサンブルを聴かせるのが主眼なのに対して,ワーグナーでは歌そのものよりもオーケストラを含めたトータルで物語を語るスタイルにあります.特に示導動機(ライトモチーフ)と呼ばれる旋律(登場人物や情景などに対してそれぞれ小さな旋律が設定され,場面場面に応じて使われる)が効果的に使われる様はまさにワーグナーという感じです.
今回の一連の公演ではシュテファン・グールドがローゲ(ラインの黄金)→ジークムント(ワルキューレ)→ジークフリート(ジークフリート&神々の黄昏)と通して出演していたのが特筆されるんですが,一方でブリュンヒルデ役は全て異なるキャストでした(ワルキューレ:テオリン、ジークフリート:メルベート、神々:ラング).
午後4時の開演でしたが,途中2回の休憩をはさみ,終演はなんと10時! とはいえ終盤ジークフリートの死からブリュンヒルデの自己犠牲までは息をつく暇もないほど一気の展開,最後の愛の救済の動機の締めを聴いた時は魂が抜けそうになっていました(一方でいつもながら残念なのはすぐに拍手したがる人がいること,せめて30秒くらいは余韻が欲しいだろう!と思ったのでした).
ともかく,ワーグナーを観劇するとその後1~2週間はその音楽が頭の中に渦巻くんですが,今回もやっぱりそうなのでした(笑).
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