登山医学セミナー
この週末,日本旅行医学会主催による登山医学セミナーが開催され参加してきました.
このセミナーは基本的には登山医学,高地における医学を取り扱うわけですが,今回は今年4月に熊本で震災があったことから,「災害時に役立つ登山医学知識と登山用具」というテーマでの開催となりました.
災害時に役に立つアイテムを俗に防災用品などと呼んでいますが,実はこの防災用品は登山などのアウトドア用品と被るところがあります.すなわちどちらもライフラインの不十分な状況に対応できるよう工夫されたアイテムだからです.テントやマット,シュラフ,携帯用ガスコンロなどの登山用品はそのまま防災用品として活用することが可能です.実際に震災時にはこうした登山用品店の売り上げが急増するんだそうです.
ただこうした登山用品,アウトドア用品もただ準備しておくだけではだめで,時々広げてみる,実際に使ってみるなどしないと本番で的確に使用するのは難しいそうです.何事にも練習が必要なのは当然で,こうした防災用品も普段から使い慣れておくことが大切だということです(キャンプなどのアウトドアを趣味している人は日々こうしたアイテムに慣れているわけで,そうした人は震災などの非常時への対応も早い).
また今回はアウトドアの際に問題となる蚊への対策も話題になっていました.実は最も人間を数多く殺している生物が蚊なのだそうです(ウイルスや細菌を除く.ちなみに2位が人間で,3位は毒蛇).特に蚊によって媒介される疾患のうち日本脳炎と黄熱病以外はワクチンはなく,マラリア以外にはほとんど治療法がないというのが現状であり,現実に取りうる対応としてはとにかく蚊に刺されないようにするしかありません.こうした防蚊対策としては防虫剤の塗布,防蚊作用のある繊維を使用した衣類の着用があり,今回はこの手の話題も取り上げられていました(防蚊衣類は海外に出かける機会の多い自分も欲しいと思った).席上,フロアから海外旅行時に防蚊作用のある食材はないかといった質問も出ていたんですが,旅行医学会の専務理事の先生が「食事で蚊が防げるというものについて,エビデンスのある話はない」と答えていて,今話題の水素水もそうですが,登山用品で検索すると「飲む酸素」,「食べる酸素」といったどう考えても科学的にありえないだろうというようなアイテムが存在することからも,防災用品の世界でも科学的検証に耐えうるものを見極める目が重要だと再認識しました.
そのほか,震災時の車中泊で問題となったロングフライト血栓症(深部静脈血栓症,いわゆるエコノミークラス症候群)や熱中症などの話題も出てきました.朝から夕方までの長丁場のイベントでしたが,内容的に興味深いため疲労感もなく楽しいセミナーでした.
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