名探偵
以前空き時間に昔の特撮番組を鑑賞していたんですが,最近は趣向が変わり黒澤明の映画や金田一耕助シリーズの映画などを見る機会が増えています.
金田一耕助といえば,作家横溝正史氏が生み出した名探偵です.江戸川乱歩の明智小五郎や高木彬光の神津恭介とともに,日本の3大名探偵などとも呼ばれています.飄々とした風貌ともじゃもじゃの頭,よれよれの着物を着て難事件を解決する姿は登場以来非常に人気が高く,これまで数多くの映画やテレビドラマで取り上げられてきました.金田一耕助を演じた役者も市川崑監督作品に登場する石坂浩二やTBSの横溝正史シリーズの古谷一行がとりわけ有名ですが,1977年の八つ墓村での渥美清や1979年の悪魔が来りて笛を吹くでの西田敏行も味がありました(ちなみに石坂以前の映画などの金田一は原作にあるような服装ではなくスーツ姿が一般的だったそう).
そんな金田一耕助,難事件を次々に解決するんだから名探偵なんだろうとは思うんですが,一方で違和感もあります.優れた探偵ならば,事件を解決して犯人をあげることはもちろんですが,事件を未然に防ぐことも大切ではと.まあ,警察なら事件が起こらなければ動かないのは仕方がないんですが,探偵ならば事件が起こる前(なんらかの予兆がある段階で)に依頼を受けるケースもあるわけで,こうした点で金田一耕助はどうなのかというわけです.
たとえば金田一耕助の復員直後(彼は第二次大戦中ニューギニアに派遣されていた)のエピソードである獄門島の事件を例に挙げます(以下作品に関してのネタバレが含まれる可能性あり).この事件の依頼人は彼の戦友の鬼頭千万太でした.日本への引き上げ船の中で重病に侵されていた千万太は,自分が死ねば3人の妹に危険が迫ること,自分はもう助からないから自分の代わりに出身地の獄門島に行って妹たちを守ってくれと金田一に依頼したのです.
こういういきさつですから金田一耕助の役割は千万太の妹たちのい周囲に起こるであろう陰謀を突き止め,その実行を未然に防ぐことなはずです.しかし結果はどうだったでしょう.事件は次々に発生し,千万太の妹たちは3人とも殺されてしまいました.最終的に犯人やトリックなどが判明し事件は解決すますが,鬼頭千万太の臨終の願いは結局かなえられませんでした.金田一は依頼を達成することはできなかったわけです.
そのほか犬神家の一族や八つ墓村では,事件の阻止という依頼こそ受けてはいないものの,ほぼ事件の始まりからかかわっていながら,犯人の計画が行き着くところまで行きついてようやく解決が図られています.1976年映画版の犬神家の一族で最後の方に金田一が,「僕がもう少し早く糸口を捜しだしていれば,5人もの被害者をださなくてすんだのではないか…」と語る場面を見ると,彼自身もそういったことを自覚しているのではと思います.
まあ,本当に事件が未然に阻止されてしまうようだと,探偵小説として成り立つのかという議論になるので已む得ないとはいえますが(そういえば,ドラゴンクエストやFFなどのRPGも主人公は任務に何度も失敗しながら進んでいく点で似ている).そんなことを考えた3月4日でした.
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