水木しげるさんの訃報
11月も最後となったこの日,突然の訃報が流れてきました.
漫画家水木しげるさんの訃報です.鳥取県境港市出身で,太平洋戦争中は陸軍の一兵士としてラバウルのあるニューブリテン島に派遣され,そこで左腕を失うという重傷を負いました.戦後復員してから漫画家となっています.代表作はもちろんゲゲゲの鬼太郎で,妖怪という存在を私たち一般に広めたのはこの作品によるところです.テレビアニメ化されたこともあって,子供向けの作品と捕えられがちですが,実際には人間対妖怪などという単純化された話ではありません.
水木さんの作風をひとことで言えば,達観した視点から人間の愚かさを見つめるところにあります.ゲゲゲの鬼太郎でも妖怪は人間を脅かす存在ばかりではなく,むしろ文明の発達によって妖怪の存在の方が外に追いやられていくような描写も見られます(そういう意味では野生動物の絶滅危惧種的なものでしょうか).
妖怪と並んで水木さんの作品の柱となるのが,自らの体験がベースになった戦記作品です.冷静に考えれば,戦争中の水木さんは現代の私たちが想像もできないほど過酷な体験をしています.しかしながら,それら戦争をテーマにした作品の中にも,戦争の悲惨さを前面に押し出すというよりは,戦争に翻弄される人間を俯瞰するという作風が色濃く出ているような気がします.漫画ではありませんが,1970年代に出版された「娘に語るお父さんの戦記」という作品では,過酷な軍隊生活や戦場の様子がどこかユーモラスな感じに語られていたのが印象的でした(この本は自分が妖怪以外の水木さんの側面を知った最初の作品でした).その他,幕末の新選組について,ちょっと見方を変えた作風となっている「近藤勇 星をつかみそこねる男」も新選組愛好家にとって魅力的な作品でした.
妖怪の世界と人間の世界を自由に行き来し,世を超越したような存在に感じていた水木しげるさん.まだまだずっと活躍されるだろうと思っていた矢先の今回の訃報,自分が子供の頃に魅せられた偉大な漫画家がまた一人いなくなったのが寂しい限りです.
水木しげるさんのご冥福を心からお祈りいたします.
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