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2015年6月 1日 (月)

歌劇 「ばらの騎士」

Img044  現在新国立劇場で公演中の歌劇「ばらの騎士」を観劇してきました.これは19世紀末から20世紀前半にかけて活躍した作曲家,リヒャルト・シュトラウスの代表作です.

 私の大学合唱団時代の仲間は彼をさして,

「シュトラウスといってもヨハン・シュトラウスのような華麗さはなく,リヒャルトといってもリヒャルト・ワーグナーには到底及ばない二流の天才」

と評していました.そこまで言わなくても… と彼に同情したくなりますが,まあそういう面もあるな,と妙に納得した思い出があります(笑).

 19世紀末に交響詩の分野で名を知られるようになったR・シュトラウスは,20世紀に入る頃からオペラの分野に乗り出します.その出世作がオスカー・ワイルドの戯曲のドイツ語訳に作曲した「サロメ」でした.かなり前衛的で濃密な音楽,七つのベールの踊りなど官能的&退廃的な作風で当時賛否両論渦巻いた作品です(1幕もので全編で2時間に満たないんですが,そうとは思えないほど鑑賞すると疲労度が高いです 笑).日本では1990年代にどこだったか海外の歌劇場の引っ越し公演で,サロメ役の歌手が全裸になる場面があったことで,芸術か猥褻かという論争が起こったこともあります(この時,当時TBS系で放送されていたニュース23の中でキャスターの故・筑紫哲也さんが「一瞬のヌードを見るためだけに何万円ものチケットを買っていく人がいるだろうか」とその論争に批判的なコメントをしていたのを覚えています).

 そんなシュトラウスが1911年に発表したのが今回のテーマ,ばらの騎士です.サロメとは打って変わって親しみやすい作風の曲です.シュトラウス自身はモーツァルトを意識して作ったというように,18世紀のウィーンを舞台にした喜劇的な筋立てです.ただ喜劇といっても,ロッシーニの様な純粋な喜劇ではなく,モーツァルトのフィガロの結婚を目標にしたとされるように,喜劇の中に人間的なもの悲しさを含んだ内容になっています(諸行無常といった日本人好みのテーマかもしれません).

 富と名誉があるものの,留守の多い夫のために,少し寂しげな元帥夫人,そんな彼女の若い愛人であるオクタヴィアン,夫人のいとこで粗野で女好きだがどこか憎めないオックス男爵,そして金持ちの平民で貴族に憧れる父によってオックス男爵と婚約させられた娘ゾフィー,この4人を中心として,フランス革命前,オーストリアの貴族たちにとってまさに古き良き時代のウィーンで彼らによる恋愛模様が展開されていきます.こういう懐古主義的な作品が,まもなく第一次世界大戦の激動に入ろうとしていたヨーロッパで大人気となったのは,そうした良き時代がまもなく終わろうとしているという空気を,リアルに人々が感じ取っていたからかもしれません.

 今回の公演は,2007年,2011年に続く再演です.自分は2011年の公演に行くつもりでチケットも取っていたんですが,直前に震災が発生,結果この年の公演は回数が縮小され,自分が行くはずだった回が無くなってしまい,今回が自分にとっては初の生ばらの騎士となりました(その他海外団体の公演にも行く機会がなかった).

 この作品は舞台背景がはっきりしていることに加えて,1960年のカラヤン指揮のザルツブルク音楽祭の名演が映像として残っていることもあって,世間でもあまり無茶な演出は行われない傾向にあります(少なくとも20世紀後半以降の指環的な感じはない).この新国立のステージもウィーン貴族の優雅な雰囲気を色濃く見せる,安心な舞台でした(笑).

 キャストではオックス男爵役のユルゲン・リンが声量があって粗野だけどコミックな役どころを上手に演じていました.元帥夫人のアンネ・シュヴァーネヴィルムスは近年ヨーロッパでもこの役を演じることが多いらしく,若い恋人たちの旅立ちを見送る威厳さと,女としての自分の時代が去っていく悲しさをうまく分けていました.第一幕の有名な独白の場面は,ヴェルディやプッチーニにはない,ゾクッとする魅力を感じます.また彼女は非常に背が高い方で,相方のオクタヴィアンがやや小柄だったこともあって,女王のような威厳を持つ夫人と若いつばめの関係がうまく出ていたと思います(オペラって舞台である以上歌も大事ですが,こういう視覚的なイメージって重要だと感じます.そういえば件のザルツブルクの元帥夫人だったシュヴァルツコップの背が高い).

 さらにこの作品では第1幕に登場する”テノール歌手”(という役)がいい味を出しています.シュトラウスのオペラはワーグナー以降のドイツオペラの形式にのっとり,いわゆるアリアというものが存在しません.歌手は途切れることのない管弦楽(無限旋律)に乗せて,台詞を音程付きで語ります(ドイツ語でSprechgesang 日本語だと語り歌いとでもいうのか).しかし第1幕の元帥夫人の謁見の場面で,人々がやり取りをしているさなかに,テノール歌手が”いかにも”なイタリア・ベルカント風のアリアを朗々と歌う場面があるのです.周辺の音楽とのギャップが素晴らしいんですが,実はこの場面,オックス男爵が公証人とのやり取りでイライラしているところに,そのアリアがかぶさり,最後男爵が「うるさい!」と切れてしまう場面なので,このテノール歌手はかなりの声量が求められる役です.なので端役とは思えない実力者が起用されることも多いんですが,今回の公演でのこの役を演じたのは水口聡さん,実力者です!

 この作品,自分が若いころはそんなに好きな作品じゃなかったんですが,歳を重ねるにしたがって良さがわかる,いわゆる大人の感性に訴える作品なんでしょうね.そんな感慨をいだいた公演でした.

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