科学と非科学
昔から世の中に存在している,「ニセ医学」を取り上げ,これに対して反証を行っている本である.著者は内科医のNATROM氏,診療の傍らで「ニセ医学」に関する情報を発信しているらしい.
ニセ医学というのは,医学のふりをしているが,科学的根拠のないインチキ医学,すなわち,「がんは治療するな」とか,「ホメオパシーで病気が治る」といった一見医学を装いながら,現実には効果の証明がなされていない議論のことである.
これらニセ医学の中には,バナナダイエットとか健康ブレスレットといった笑って流せるものもあるが(健康ブレスレットに関しては経済的な点で問題はあるが,少なくともそれで病気になるわけではない),がん治療の否定やホメオパシーの過信などは現実に死亡例など実害が発生しており,看過できない.
ある治療が本当に有効であるのかどうかは二重盲検法と呼ばれる手法を用いて検証される.たまたまある人が,健康ブレスレットを着けたら風邪が治ったからといって,そのブレスレットが風邪に有効であると判断することはできない.現在一般臨床の現場で使用されている高血圧などの治療薬は発売前にこの二重盲検法で有効性が確認されたものである.また各種疾患に関する治療ガイドラインもこうした検証によって作られている.
一方でニセ医学に関しては二重盲検法などの科学的な検証がなされることはなく,それらを発信する側にとって都合のいいデータを都合のいいように解釈しているだけのケースがほとんどである.たとえば,健康ブレスレットについていえば,本来なら風邪をひいた人たちを2群に分け,片方には健康ブレスレットを,もう片方には健康ブレスレットに似て非なるただのブレスレットを装着させ,健康ブレスレット装着群がそうでない群に対して統計的に有意に風邪への効果(この場合は罹病機関の短縮など)があると認められて初めて,このブレスレットは風邪に有効という結論に至るのだが,この手の健康グッズに関して,そうした検討が行われたという例は寡聞にして聞いたことがない.そもそもそういう検討がなされているのなら,ちゃんとした医学雑誌に投稿されるはずである.
この本はこうしたニセ医学をバッサバッサと切り捨てており,読んでいて痛快な気分になる.実はこの手の本として過去に,と学会から出ていたトンデモ超常現象99の真相という本があった.これは世に出回っているオカルト系の話題の風説を取り上げて矛盾点や誤解を示していくもので,そのノリが今回紹介した本に似ているのだった.案外NATROM氏もと学会の本に影響を受けたのかもしれない.
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