独自の戦い
「独自の戦い」
この表記を見てピンときた人は結構な選挙報道通であろう.この文言は,一般に当選する可能性が極めて低いと予想されている候補者(いわゆる泡沫候補)の選挙活動について触れる際のマスメディア(特に新聞)の決まり文句なのである.
民主国家である我が国では,公職選挙法等に定められた例外規定(禁固以上の刑に処されて所定の年月が経っていない,年齢制限等)を除けば基本的には誰でも立候補ができることになっている.とはいっても,国会議員選挙や大規模な自治体の首長選挙(東京都知事選や政令市長選など)など有権者数の多い選挙の場合は,実際に当選するのは有力な政党の公認・推薦候補で,まったくの無所属やマイナー政治団体の候補者は,よっぽど本人に知名度がない限り当選は難しい.
とはいえ,大都市部の国会議員選や東京都知事選など全国から注目される選挙になると,主要政党以外からもたくさんの候補者が乱立する傾向があり,たとえば2014年の東京都知事選には16人もの候補者が立っている.しかし,それらの候補の中で実際に当落線上で争うのは主要な数人だけであり,他の大半の候補者はほとんど得票を得られずに消えていくことになる(泡のように消え去ることから泡沫候補と呼ばれる).
選挙報道というものは本来特定候補に偏らず公平であるべきなのだが,現実にはそうではない.たとえば選挙中に各紙に掲載される,「○△選終盤の情勢」なんていう特集記事でも,有力候補に関しては「○△氏は保守層に浸透」とか,「◆●氏は組織を何割固めた」といったように詳しく解説されるのに対して,泡沫候補については「▲×氏は独自の戦い」の一行で済まされるのがほとんどだ.この独自の戦いという言葉の言外には「選挙の主要争点とは離れたところで一人で活動している」的なニュアンスが感じられる.
さて,こうした泡沫候補と呼ばれる候補者たちの中でも,まったく話題にもならない無名な人もいれば,ドクター中松のように,それなりに知名度があって,まったくの泡沫ともいえない人もいる.
今日のニュースで,そんなそれなりに知名度のある名物候補だった三上誠一氏が亡くなったという話題が出ていた.
青森県出身の三上氏は羽柴秀吉の名前で各地の選挙に出馬,最終的に当選には至らなかったものの,名物候補としてメディアでもそれなりの扱い(少なくとも晩年は「独自の戦い」の一言では片づけられていなかった)を受けていた.特に2007年の夕張市長選の時は主要政党がほとんど独自候補を出さなかったこともあって,当選の一歩手前まで行ったこともある.
近年出馬のニュースを聞かないなぁと思っていたが,闘病のためだったということを今回の訃報で知ったのだった.
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