水木しげるの新選組
以前新選組の変わりダネ作品として,手塚治虫氏の作品を紹介しました(手塚治虫の新選組).そこで,第2弾として紹介するのが,水木しげる先生による新選組作品,劇画 近藤勇 星をつかみそこねる男 です.
水木しげる氏は鳥取県境港市出身で,太平洋戦争中は陸軍の一兵士としてラバウルのあるニューブリテン島に派遣され,そこで左腕を失うという重傷を負いました.戦後復員してから漫画家となって現在に至っています.代表作はもちろんゲゲゲの鬼太郎ですが,水木氏の作風はひとことで言えば,達観した視点から人間の愚かさを見つめるところがあります.なので,たとえ自らが体験した戦争をテーマにした作品であっても,戦争の悲惨さを前面に押し出すというよりは,戦争に翻弄される人間を俯瞰する感じになっています.
そんな水木氏が描いた新選組の漫画です.彼がこの作品を描くきっかけになったのは,東京の調布市に引っ越した後のこと,新選組局長の近藤勇がこの調布市出身とということで興味を持ったからのようです.タイトルからもわかるように近藤勇が主人公です.物語は多摩時代から始まって,試衛館時代,浪士組に参加して上洛,新選組の結成から池田屋事件,鳥羽伏見の戦いの後の江戸帰還,甲陽鎮撫隊から板橋での刑死までその生涯をたどるという極めてオーソドックスなスタイルを取っています.水木氏は特に倒幕佐幕どちらかの陣営に肩入れするというのではなく,結果的に明治の元勲になれた者を星をつかんだ男,なれなかった者を星をつかめなかった男というふうに表現し,みなそれぞれ思いはあったろうが,結局は星をつかむ運があったかなかったかの違いというような視点で描いています.
作品は本当に近藤勇中心で展開するので,土方歳三や沖田総司等,一般の新選組作品で重要な役割を担う隊士もあまり目立ちません(なのでそれらの人物がとにかく好きだという人には物足りないかもしれません).近藤自身も,決して格好いい存在として描かれているわけではなく,剣術が上手くて順朴,魅力的だけれども,女に手が早く,欲深いなど俗物的な面もしっかり描いています.ある意味泥臭い近藤勇であり,私的には面白く読めました.
現在はネットでも簡単に手に入りますので,ぜひご覧あれ.
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コメント
大河ドラマの年には色々と復刻しましたよね。皇帝の評論は実に無駄が無くまとまっていて、文章構成力にいつも感心致します。
私だったら、同様にまとめるのに悩んで数時間かかるでしょう(^_^;)
こんばんは、ビザ皇帝様。
これはコンビニでよく売ってるあの形(雑誌の紙で特厚のやつ)のを持っております。
最後に遺体を掘り起こす郷里の人々の「悔しかったろうなぁ」が妙なリアルさで印象深いです。
投稿: おねむり快男児!! | 2011年4月 1日 (金) 17:44
この本・・昨年調布で開催された
本やまんがの近藤勇展で読破してきました。
(いやー・・・観覧客があたいしかいなかったので)
小僧さんの目を通した近藤さんでしたね。
新選組まんがによくも悪くもある
「お涙」がまったくなくて、からっとした
ドライな印象を受けました・・・。
ラストあたり、小僧さんの
「多摩の百姓で一生暮らすのも
いいじゃないですか」っていう(すいません
セリフあいまい)一言がやけに印象に残ってますです。
ゲゲゲ茶屋にこの本を書くきっかけになった
話のまんが原稿が展示されていたんですが
今でもあるかな??
投稿: フミヲ | 2011年4月 3日 (日) 02:40
ビザ皇帝様 こんばんは!
星をつかみそこねる男…的を射てますなぁ。
水木しげるさんが「新選組」の本を描いてらっしゃるとは知りませんでした。
投稿: まーうさ | 2011年4月 3日 (日) 14:24
おねむり快男児!!さん
こんばんは,コメントありがとうございます.お褒めいただき恐縮です(笑).
最近は昔のコミックスがいろんな形で復刻されてますね.コンビニ風コミック(変な表現)にもなっていたとは知りませんでした.
>郷里の人々の「悔しかったろうなぁ」が妙なリアルさで印象深いです。
そうですね,人間の自然な心に一番近い新選組作品かもしれませんね.
投稿: ビザ皇帝 | 2011年4月 3日 (日) 14:52
フミヲさん
こんばんは,さすがご存知でしたか.
この作品,手に汗握るちゃんばらシーンはないし(芹澤鴨もあっさり斬られるし),沖田総司には悲壮感はないし,そういう意味ではドラマ性が薄くてかえってリアルに見えるんでしょうね.
そうそう,あの謎の(笑)小僧さんが重要な人物ですね.何者なんでしょう.
あとがきで水木しげるさんが,自分が越してきたころの調布は本当に田舎で,幕末時代の雰囲気がそのままだったとか書いてたんですが,妖怪も生息していたのかもしれませんね.
投稿: ビザ皇帝 | 2011年4月 3日 (日) 14:59
まーうささん
こんばんは,コメントありがとうございます.
大河以来よくある,かっこいい新選組ではなく,正直言ってあまりかっこよくない新選組&近藤勇の物語です(だからといって倒幕派がかっこよく描かれているわけじゃないですが).
星をつかみそこねる男 私もこのフレーズに感心しました.
投稿: ビザ皇帝 | 2011年4月 3日 (日) 15:04
こんにちは。
つぶらな瞳が愛らしい近藤さんですね。
でも、そこが妙に似ています。
新撰組と言えば、ひのパレも中止になっちゃったのですね。
残念ですが、来年までじっくり待ちます。
去年のレポもね♪
投稿: パンダ子 | 2011年4月 4日 (月) 09:42
水木しげるさんも新選組をテーマに描かれてたんですね( ̄□ ̄;)!!勉強になります。是非見てみますね
投稿: おねえさま | 2011年4月 5日 (火) 00:50
パンダ子さん
こんばんは,コメントありがとうございます.
>つぶらな瞳…
非常にウケテしまいました(笑).
そうなんですよ,ひのパレも今年は中止になってしまったので,なんとなく心の底に空間があるような4月の初めです.
来年に期待しましょう… レポも(ウソです,早く完成させます).
投稿: ビザ皇帝 | 2011年4月 5日 (火) 14:03
おねえさま
水木氏が描く昔の農村の風景は,リアルで非常にいい雰囲気を出しますから,それだけで作品世界に引き込まれるような気がします.
ぜひ読んでみてください
(途中に壬生義士伝で有名になった吉村貫一郎のエピソードも出てきます).
投稿: ビザ皇帝 | 2011年4月 5日 (火) 14:06