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2010年12月22日 (水)

医師のブログ

 私が時々訪問していて,何度かコメントも入れたことがある,医師を名乗る方のブログがありました.消化器外科を専門にしているとのことで,さまざまな医学情報や自らの日常業務について結構詳細に書かれていたブログでした.が,昨日久しぶりにのぞいたら,なんとURLごと削除されていました.詳細は不明ですが,最後に覗いたときに

 医師でない者が,勝手に医学情報を書くことは法律違反です

みたいな内容がコメント欄に付けられていました.それに対する反論等も書かれていましたが,思うにその辺の議論がエスカレートして,ブログがいわゆる炎上状態になったのかもしれません.このブログ主さんとブログ上で仲良くなった(と思われる),同じく医師を名乗る別の方のブログもあったんですが,こちらも時を同じくしてブログそのものは残っているものの,すべての記事が削除された状態になっていました(こちらも何か関連があるのかもしれません).

 件のブログ主さんが実際に医師だったのかどうかは,本人にあったわけでもないので断定はできずコメントしませんが,今回のことは医学情報という非常にデリケートな内容を,ブログという極めて匿名性の高いツールで扱うことの難しさ,問題点を示しているように思います.

 医学は自然科学の中では極めて不確定要素の大きい学問です.数学や物理学がある定理や理論にしたがってほぼ確実に結果が予測される(量子論は別ですが 笑)のとは異なり,同じ疾患であっても個体(症例)ごとに全く異なった経過・結果を示すこともまれではありません.医学を取り扱うものに国家資格が定められているという事実や,医師法で診察なしの投薬が禁止されているという事実は,そういった医学の特殊性に配慮しているためとも考えられます.ですから,たとえば数学や物理学に関してなら,(極端に公序良俗に反しない限り)どんなにトンデモない理論の本を出版しても,まず罪に問われることはありませんが(例 「相対性理論は間違っていた」 etc.),医学情報に関してはさまざまな規制や罰則があるわけです(医薬品以外のたとえばビタミン入り飲料は,○△に効果があるといった薬効を表記することは禁じられています).

 ブログで,医師という立場を明示して医学情報を発信すれば,多くの読者はその情報を医師という立場にある人の見解ととらえるわけです.しかし一方でブログは匿名を前提としたツールですから,受け手の立場になれば,そのブロガーが本当に医師であるのかは検証のしようがありません.疑えばきりがないとは言いますが,こと医学情報ですから,たとえば自分の病気に関してこれらブログで入手した情報をもとにして,結果的に誤った治療方針を選択してしまっても,だれも責任をとってはくれないわけです.ネット時代になって調べ物でよく使われるWikipediaでも,こと医学情報に関しては「この記事を個々の症例の診断等には使うな」という旨が記されています.

 ネットでも大学病院の講座やクリニックなどで独自にホームページやブログを作って医学情報を提供しているところは多くあります.ただ,それらはすべて病院・診療所の名称や責任者(大学なら教授,クリニックなら院長)の実名をきちんと明記し責任の所在をはっきりさせたうえでの情報発信であり,匿名のブログとは根本的に違うものです.やはり特殊性の高い情報の取り扱いには慎重であるべきということなんでしょう.

 ひるがえって,当ブログ&HPも一応医師を名乗る人物のブログ&HPなので(笑),時に医学的な意見を求めるコメントが掲示板に来ることがあります.ただ回答にあたっては,「あくまで一般論であり,あなたのケースに当てはまるとは限らず,必ず医療機関を受診して下さい」というような内容を口酸っぱく付けるようにしています.実際に症例を自分の目で診ることなしに診断するなどという行為は,少なくとも医師としては恐ろしくてとてもできないですから.

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コメント

こんばんは、ビザ皇帝さま。
では、電子メールなどでの病気の相談はおおざっぱ過ぎて恐ろしいもの?なんでしょうね。

投稿: おねむり快男児!! | 2010年12月26日 (日) 14:10

おねむり快男児!!さん

こんばんは,メールでの相談は「こういう検査をした方がいい」とかいうレベルの回答なら全く問題ないですが,具体的な診断ということになると恐ろしいですね.逆にすでに診断が付いているケースでのアドバイス(高血圧といわれている人への禁煙指導など)は扱いやすいテーマではあります.

投稿: ビザ皇帝 | 2010年12月28日 (火) 14:47

ビザ皇帝様、こんばんは。
そうなんですね・・・プロの医師へ「こう言った人がいるのですが・・・」と他人の事を相談しても、大変難しいと言う事ですね。
ましてやメンタルな病は相当困難なのでしょう。

投稿: おねむり快男児!! | 2010年12月28日 (火) 19:27

おねむり快男児!!さん

私の外来でも時々患者さんが,親戚にこんな人がいてといった相談をしてきます.なるべくわかる範囲ではお答えするようにはしていますが,やはり核心に迫る話にはなりませんね(メンタル方面の話題もよく出るので,特にメンタルが困難というわけではないですが).

投稿: ビザ皇帝 | 2010年12月31日 (金) 13:56

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