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2010年3月22日 (月)

月シリーズ

 だいぶ前にここで,エドガー・ライス・バローズの火星シリーズの話題を書きました(火星シリーズ).火星シリーズはバローズの代表作ですが,彼は多作家なので他にも色々な作品を書いています.

 とくに有名なのがターザンシリーズで,本国アメリカではこちらの方が有名です.

 その他にも地底シリーズ,金星シリーズなどもありますが,その中でちょっと異色なのが,表題の月シリーズです.本シリーズは三作品からなり,原題は” The Moon Maid ”(邦題 月のプリンセス),” The Moon Men ”(邦題 月からの侵略),” The Red Hark ”(邦題 レッド・ホーク)です.日本では2分冊になっています.

Maid Men

(写真) ウチにある創元推理文庫版のもの

 この3作品,三者三様の魅力があって,第1作はスペースオペラ,第2作は社会派小説,第3作は西部劇といった感じです.三部作ではありますが,実はバローズ自身が書きたかったのは第2部で,実際に第2部が最も早く執筆されました.これは月人による地球侵略と征服,月人の圧政下に置かれ虐げられる人類と,その境遇から立ち上がる人々の姿を描いたかなりハードな小説です.火星シリーズなどの定番になっているハラハラ,ドキドキからハッピーエンドという形式では全くありません.

 ではどうして彼がこんな作品を書いたのかということですが,それは当時の時代背景が関係しています.この作品が作られたのは第一次世界大戦の終結後,世界中に厭戦気分が蔓延していた時期です.人類に未曾有の惨禍をもたらした大戦の反動で主要国には軍縮ムードがただよっていました.そんな時代にバロウズは当時静かに勢力を増しつつあった共産主義の影に脅威を感じ,世間の軍縮ムードには批判的な態度をとっていたのです.第2部の冒頭で描かれる,大戦後の反戦ムードから世界各国で軍備の縮小・廃棄が続きすっかり平和ボケしてしまった人類が,月人の侵略の前になすすべもなく屈服しその支配に甘んじてしまう流れは,まさにこのままではいずれアメリカをはじめとする資本主義諸国は共産主義勢力に圧倒されてしまうという恐怖を近未来小説の形で描いたものなのです(月人が社会のあちこちに監視者・密告者を張り巡らし地球人の自由な言論を封じるやり方や非効率的なシステムなどは明らかに共産主義国家を意識しているように思えます).

 しかしながら,彼の考えは当時の人々の受け入れるところとはならず,この作品は11もの出版社を回ったものの全て断られてしまいました.そこでやむなく,より一般に受け入れられやすくするために第1部と第3部を書きたすことでエンターテイメント性を増して現在の形に落ち着いたという次第です.

 実際には第2部執筆時のソ連はロシア革命後の混乱で周辺国ではともかく,遠いアメリカでは脅威と感じられてはいない時期でしたが,その後の第二次大戦から冷戦へと続く歴史からはバローズの先見の明が感じられます.

 今回久しぶりに引っ張り出してみたんですが,執筆から90年もの年月を感じさせない秀作であるとの認識を新たにしたのでした.

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コメント

ビザ皇帝様 こんばんは!

「あぁ!『月と土方歳三』のシリーズの!」

…と、別の入口から思い出しました(爆
前に見た本の表紙の絵と違って、今回の記事のプリンセスの女性がK様に似て見えます。
ストーリーの中に当時の時代背景とメッセージが込められてるんですね。
時代が変わっても、今もなおどこかで戦争が起きてる事を悲しく思います。

投稿: まーうさ | 2010年3月22日 (月) 21:00

<まーうささん>
 こんばんは.コメントありがとうございます.
 よく覚えていましたね(笑).さすがに月世界には土方歳三は行かないようです(って,もしこの世界に歳三がいたら地球人もそう簡単に月人に屈することはなかったでしょう).

 表紙の女の人,ウチのKに似てますか?
そうならきっと喜ぶでしょう(笑).

 SFといえどもやっぱりその時代の世相を反映するんでしょうね.そういう視点で読んでみるのもいいかもしれません.

投稿: ビザ皇帝 | 2010年3月23日 (火) 20:35

話題ってなに?

投稿: BlogPetのアロイジア | 2010年3月25日 (木) 15:02

<アロイジアへ>
 まぁ,ネタのことかな.

投稿: ビザ皇帝 | 2010年3月25日 (木) 23:26

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