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2009年8月 4日 (火)

ペスト

 今日8月4日は久しぶりに一日中晴れでした.朝から夏の青空と湿気,そして蝉の声とまさに夏の一日です(なぜにこんな日に仕事をという気分になります 笑).

 そんな今日,ニュースで興味深い記事を見つけました.

 中国・青海省で「肺ペスト」発生

 私と医学の出会いは,小学校時代に読んだ野口英世の伝記でした.そこから伝染病に興味を抱き,保健室に出入りして,置いてある資料を読んだりしたのですが,当時はコレラペスト黄熱病などの伝染病(感染症)に恐れおののいていたものです.

 しかし衛生状態が格段に良くなった現代日本では,上記に掲げた感染症を見ることはなく,私もこの3疾患の臨床経験はありません.

 しかしこれらは世界的に見れば,決して過去の感染症ではなく,今でも時々発生が報告されています.コレラは東南アジアなどから時々日本にも入ってきますし,黄熱はいまだにアフリカを中心に蔓延している疾患で,入国の際に黄熱の予防接種証明書(イエローカード)を求められます.ペストについてもインドを中心に時々報告があります.ちなみにペストという言い方はドイツ語(Pest)で英語ではPlagueと呼びます.

 さて,本日のニュースで特に私の関心を引いたのは,今回のペストが肺ペストらしいからです.

 ペストは本来ネズミなどのげっ歯類に感染する病気ですが,ノミを介して人間にも感染します.原因となるのはペスト菌です.6世紀のビザンチン帝国時代からヨーロッパをしばしば脅かし,特に14世紀の大流行ではヨーロッパ人口の三分の一が死亡したといわれています.感染パターンから

 ① 腺ペスト

 ② 敗血症ペスト

 ③ 肺ペスト

 の3つに分けられます.このうち圧倒的に多いのが①の腺ペストです.これはノミに咬まれた傷からペスト菌が侵入して近在のリンパ節を腫脹させ痛み,発熱を起こすタイプです.次に多いのが②の敗血症ペストで,同じく咬み口から入ったペスト菌が血管内に侵入して全身感染症を起こすタイプで,病状が進行すると血液凝固系の異常から皮膚に出血斑が生じるのが特徴です(ここから中世には黒死病と呼ばれました).初期には特徴的な症状がないため血液培養以外に診断法がなく治療が後手になる恐れがあるタイプです.そして一番少ないのが③の肺ペストで,これはペスト菌によって肺炎で発症するタイプです.本来ペスト菌は飛沫感染しないので,肺炎で発症することはないはずですが,腺ペスト患者が進行して二次的にペスト菌肺炎に至り,そこから飛沫に乗ってペスト菌が他の人の呼吸器系に侵入するのでは,といわれていますがはっきりしません.

 ちなみにこの3病型の頻度ですが,ハリソン内科学によると1950年~1996年までのアメリカ国内のデータで,腺ペストが86%,敗血症ペストが12%,肺ペストが2%とされており,肺ペストが極めて稀なタイプであることがわかります.

Pestis_002 (写真) 今回ペストについて勉強しようと,普段は本棚の飾りになっているハリソン内科学を引っ張り出しました.

 今回中国ではこのもっとも稀な肺ペストが発生し,しかも集団発生しているという点が特徴的です.先にも述べたようにペストの感染経路は基本的にノミ→ヒトであり,ヒト→ヒトの感染は稀だからです.現地では一帯を封鎖したとのことですが,今後どうなるのか注目していきたいと思います.

 ちなみにニュースやWikipediaでは肺ペストの致死率は100%近いと出ていますが,ハリソン内科学によると,(1950~1996年アメリカのデータでは)約40%とのことです.

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コメント

ビザ皇帝様 こんばんは!

野口英世=黄熱病という記憶が…。
子供の頃は感染症なんて「とびひ」「インフルエンザ」くらいしか知らなかったんですが、ニュース見るようになって、感染症とか取り上げた映画などが出てきたあたりから、何だか敏感過ぎるくらいに反応しちゃいます。

「体力あるから」「健康だから」
と自信あっても突然発症しるんですもんね。

感染菌、新型インフルエンザもそうですが、考えてる以上に進化の速度が速いし予測しにくいんですよね?
医学の進化に終わりはないんだなぁ…と思います。
お疲れ様です。

投稿: まーうさ | 2009年8月 4日 (火) 23:14

<まーうささん>
 こんばんは,コメントありがとうございます.
 野口英世=黄熱病は小学生の伝記には必須の素材ですね(野口英世が加藤芳郎に似ていることも 笑).
 医学生時代は抗生物質の進歩もあり,感染症なんて難しい病気じゃないなんて不遜な考えを持っていた時期もありましたが,実地の臨床現場に出るようになって,現代でも感染症がいかに恐ろしいか日々感じています.
 おっしゃる通り,人間と感染症の戦いは終わりそうにありません.

投稿: ビザ皇帝 | 2009年8月 5日 (水) 23:39

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