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2009年4月 1日 (水)

火星の土方歳三

 先日火星シリーズの記事のついでに載せた気になる本,「火星の土方歳三」.

 AMAZONの中古本で見つけて購入したものが昨日の夕方家に届き,一晩で一気に読み通してしまいました.

Hon_005 (写真) 表紙です.左上の美女と右下の緑色人がツボです.羽織っているのが新選組の羽織に似ているのは偶然です(笑).

 火星シリーズはアメリカの作家エドガー・ライス・バロウズ(ERB)が1911年頃から書いたSF作品です.第1作の火星のプリンセスから第11作の火星の巨人ジョーグまで全11本あります.100年近く前の作品ではありますが,決して色あせることのない手に汗握る素晴らしい作品群です.私も初めて読んだ時は時間がたつのを忘れて読みふけったほどです.

 このシリーズの大きな魅力が,その独特の火星世界です.赤色人や緑色人などの様々な人種や種族,バンス(火星ライオン)やキャロット(火星犬),シス(火星スズメバチ)といった火星独自の生物などが織りなす地球とは大きく異なる世界は非常に魅力的でした.

 この火星シーズの世界に新選組の鬼の副長こと土方歳三が飛び込んでいくんですから,いったいどうなるやら,火星シリーズファンにして新選組愛好家としては非常に気になるところです.

 読んでみて,いやー良くかけていると感心しました.ERBの火星ワールドに迷い込んで,ただ困惑する土方歳三がギャグのように描かれるパターンを予想していたんですが,さにあらず.もちろん当初は火星への移動,緑色人の襲撃バンスとの一騎打ち囚われて闘技場でのバトルなどERBワールド定番の場面と,それに戸惑う歳三が描かれます.しかし後半になると逆にERBワールドの中に新選組ワールドを作っていく歳三,火星一の大都市大ヘリウムの治安を守るための組織を結成し,自らその副長となって,不逞の輩をバッサバッサと斬っていくんです.彼の周りには火星の剣術使いが集まり,特に若くて陽気な赤色人の青年に三段突きをやらせる所は素敵過ぎます.もちろん歳三は火星でも女にもてます.奴隷にされていた赤色人の美女を身請けして,「歳三さま…」なんて呼ばれる始末,火星シリーズの世界がいつの間にか燃えよ剣の世界に変わってしまっています.

 まず何より,本を開いてタイトルのページ,目次をすぎて,登場人物が列挙されているページがまずツボです.見事に創元社版の火星シリーズそのまんまなのです.創元社版の登場人物紹介は

 ジョン・カーター…地球人,バージニア出身の騎兵隊大尉

 タルス・タルカス…緑色人,サーク族の副首領

 というふうに,名前・人種・身分出身等の順で列挙されていますが,これが全くそのまんまで,早くもこの本に引き込まれていきます.

 文章そのものは歳三の一人称で語られます.すなわちその時々の彼の気持ちがストレートに表現されているわけで,非常に楽しめます.1869年(明治2年)5月11日新政府軍の銃弾に倒れた歳三の魂は遺体を離れその中空に漂います.彼は自分の遺体を取り囲んで涙する仲間たちについて,(以下本文より引用)

 意外なのは、生前、私とは犬猿の仲だと思っていたあの榎本釜次郎―反りの合わなさ加減は、おおかた衆目の一致するところだろう―が、私の遺骸を前に涙したことだ。生きてるうちにそうしろよ、釜次郎と、私は思わず叫んだ…

 滑稽なのはわたしの直属の上官、あの厚顔な大鳥圭介が、長々と弔辞を述べたことだろう。… おおかた 「ああ土方くん。思えばきみは」とかなんとか、美辞麗句を虚無に並べたに相違あるまいが、それを聞かずにすんだのは幸いであった。

 (引用終了)

 などといかにも彼が言いそうなことがつづられていて,嬉しくなったのでした.

 この本,新選組愛好家でも十分楽しめますが,火星シリーズ(全部とは言わない,せめて冒頭3部作,いや最初の火星のプリンセスだけでも)を知っていて読むと,随所にツボる場面があって涙がでます.

 古書とはいえ,これが100円は安かったなぁ.

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コメント

これはおもしろそう!! ぜひ 読んでみたいです。
思わずにやけてしまいそうなので一人の時に読んだ方がよさそうですね。
図書館にあるかなぁ? 
火星のプリンセスと合わせて、今度調べてみますね。
100円なら買えば良いのか!?

投稿: 琴 | 2009年4月 1日 (水) 14:44

<琴さん>
 ぜひぜひ読んでみてください.
面白いですから.
荒唐無稽だって言われればそれまでですが,
「燃えよ剣」だって十分荒唐無稽ですから,
人のこと言えません.
 読んでいて間違いなく顔がにやけますので,一人のときか,同じ趣味の仲間といる時をお勧めします.
 あとは,やっぱり火星のプリンセスと併せて読むことをお勧めしますね.

投稿: ビザ皇帝 | 2009年4月 1日 (水) 15:27

先生:読んでみたくなるような解説ありがとうございます!すんません、あたいの想像では「火星のタコ型宇宙人」と決闘でもすんのかいな、お笑いかい!と思ったんですが
素晴らしいスペースファンタジーのようですね。で、結局最後は地球に戻れるんでしょうか・・と言っても戻れるからだがないんですけど。

投稿: フミゾウ | 2009年4月 1日 (水) 15:41

ビザ皇帝様 こんばんは!

もぉお~!こういう笑い(?!)こそ不況の世の中を明るく照らすんですよね!!
土方の本なのに表紙にバッチリ異国人とニコチャン大王(アラレちゃんに出てくるヤツ)のコラボは、この世界の素晴らしさを語ってますよね!

投稿: まーうさ | 2009年4月 1日 (水) 16:01

<フミゾウさん>
 コメントありがとうござます.
 私も当初はB級ヘチョもの小説だと思っていたんですが,どうしてなかなか,感動しました.
 はたして土方歳三は地球に戻れたのか… まあたしかに戻っても体はもうないですもんね.これから読んでみたいという人のためにあえて伏せますが,火星シリーズ(ERBの)の概念を理解している人にとっては極めて納得がいく結末になっているとだけ言っておきます.

投稿: ビザ皇帝 | 2009年4月 2日 (木) 13:42

<まーうささん>
 コメントありがとうございます.
 あ,あの…,その…,これはニコチャン大王ではなくて(似てますが),火星で最も好戦的な種族である緑色人なんです().
 たしかにこの本,不況下の社会を照らすだけの明るさと楽しさを持っていることは間違いないでしょう.

投稿: ビザ皇帝 | 2009年4月 2日 (木) 13:47

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