論文とは?
本日はちょっと硬い記事です.
当ブログは基本的に政治的な話題を取り扱わないんですが,今日はちょっと特別に.
最近世間を賑わせた話題に,航空自衛隊の前幕僚長による論文問題があります.国会で参考人招致も行われました.
実は当初この話題が出たときの私の認識は,「論文の内容がかなり微妙なテーマを扱っており,しかもその趣旨が政府の公式見解と食い違っていれば,自衛隊の幕僚長という立場を考えると問題になりそうだな」というものでした.内容に関してはそれほど関心を持ちませんでした.
私は戦史にはかなり興味があり,その筋の書物もかなり読んでいます.それゆえ、こういったテーマ(戦争とは所詮政治の延長であり,善悪二元論で単純に語れる性格のものではない)の難しさもわかります.自分の子供時代の日教組全盛期に盛んだった,いわゆる自虐史観に反発する一方で,その対極にありそうな靖国史観にも強い違和感を感じます.一般にマスコミはこういった話題をセンセーショナルに書きたてる傾向があるため,少なくとも航空幕僚長という要職にある方の書いた論文なら,それなりの説得力もあるのだろうと思っていました.その論文を読むまでは…
今日,件の前幕僚長の論文(某所で最優秀賞を取った論文だそうである)を読む機会がありました(前幕僚長の論文).
一読して目が点になりました.
「これは論文なのか?」
私も一応学位を持った学者の端くれです.今でも稀に論文を書くこともあります.
論文とは自分(およびその共同研究者)の主張を論理的に述べた文章です.ただ,主張をすれば良いというものではなく,その主張の根拠となるものを示さなくてはなりません.根拠がなくただ主張だけ書き連ねるのは妄想であって論文ではありません.
他人の論文を読む場合には,書いてある内容を鵜呑みにすることはできません.書いてある内容が真実である保証はないからです(人は活字に書かれた文章は無条件で事実と捉えがちですがこれは危険なことです).あくまでもその文章を吟味し,自分なりに考える必要があります.そして論文を書く側は読者が検証できるように,自分の論文の根拠となった資料(実験ならその方法,他の研究者の意見ならその元論文等)を提示する必要があります.
そういう意味では,件の論文は論文とはいえないような気がします.あちこちに「~である.」,「~であるといわれている.」,「最近~であるといわれるようになった.」という文章が出てくるんですが,そのほとんどに引用文献が記載されておらず,検証の仕様がないからです(一般に論文には文中必要な箇所に脚注を付け,最後に参考文献リストが載るんですが,この論文にはそのようなものはついていませんでした).これでは言いっ放しの文章であり,とても学術論文と呼べるシロモノではないと感じます(あえて言えばエッセイでしょうか).
案外今回の事件の最大の問題は,こんなエッセイとしか思えない文章を論文と称して書いてしまうような人物が幕僚長の重職に就いていたという事実なのかもしれません(ウチの同僚が「これなら辻政信の方がマシな論文を書きそうだ」と言っていました).
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