勤務医の置かれた状況
ネットのニュースに興味深い記事が出ていた.
地域の中核病院に勤務する医師の実態を調査したものだ.今年の3月まで自分も地域の中核病院にいたのでわかりすぎるくらいわかる話である.
先日当直の話題で取り上げたのだが,地域の中核病院の当直はまさに夜勤であり,まともに睡眠時間が取れないくらい忙しい.それでいてあくまでも当直のため翌朝は通常勤務が待っている.調査では過去1週間の連続勤務について全体の1/4が36時間以上であったという.私も若い頃には3連続宿直の70時間以上勤務というのを経験したことがある(もちろんこれだけの時間起き続けているのは不可能で,数十分~1,2時間くらいづつ細切れで仮眠を取るのだが).こうなると最後の方は意識モウロウとなってくる.職業意識と極度の緊張感で間違いがないように仕事をするのだが,ちょっと気を抜くと意識がなくなったこともある(外来で問診中に意識を失いかけ,患者さんに「先生,大丈夫ですか」と同情されたこともあった).調査では一週間の労働時間が70時間以上(すなわち超勤30時間以上)という医師が25%以上いたそうだ.
とはいえ,この事態は今起こったものではなく,少なくとも10年以上前からあったことである(私は脳卒中を取り扱う診療科のため,救急・夜間の呼び出しには縁が深い).ただそれが最近になってニュースに取り上げられているのは,これら勤務医の疲労が破断界に達しようとしているからであろう(このような環境下にありながら私が新選組まつりなどに参加できたのは,たまたま優秀なスタッフや同僚に恵まれていたのと,私自身の楽天的な性格のためであり,本当に偶然である).
その原因としては昨今の国の医療費削減政策に起因する病院の収益悪化とその反動としての勤務量の増大,医療費の自己負担率の上昇などによる患者サイドの権利意識の増大(金を払っているのだから治って当たり前という意識)と医療訴訟の増加によるストレスがある.特に2006年に福島県で産科医が逮捕された事件(手術中に妊婦が死亡した責任を問われて医師が逮捕された事件.極めて稀な症例であり予測は不可能であったと思われる)の際は,私の周囲でも「これじゃ,たとえヘルニアの手術でも怖くてできない(ヘルニアの手術は若手外科医が始めに経験する手術)」という声があった.また当時一部マスコミによる病院叩きの風潮も見逃せない点である(特に2006年に奈良の病院に関する某M新聞の報道など).つまり以前ならたとえ忙しくても使命感や,患者さんの感謝の声で頑張ってこられたものが,それらが失われてきた(最近のモンスターペイシェント含む)ことによるモチベーションの低下があるのである.
本来なら医師の声を代弁する組織として医師会があるのだが,現実には医師会の中心は開業医であり,もっとも悲惨な立場におかれている中核病院の勤務医の声はなかなか外にでてこないのが実情である.国は最近になって医師不足対策に予算を付けると言っているが,果たしてどうなるのか注目したい.実は厚生労働省はつい最近まで医師不足は存在しないという立場を崩していなかった.医師数は足りており,単に偏在しているだけだという主張だった.昭和末期から医師過剰時代が来ると医学部の定員を減らし続けていたから,今更ウソでしたとは言えなかったんでしょうな.この辺は戦況の悪化を見ようとせず,面子にこだわって的確な指導ができなかった大本営の体質が色濃く残っている気がする.
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コメント
初めまして今の医師や看護婦さん達の過大重労働は国の政策の誤りに尽きません!医師も私達と同じ人間であり一方的に医師の使命間で労働はあまりにもしどいと思います。改善策を早急にしないと大変なことになります。マスコミも無責任な報道だけでなく国民全てが行動する時と思います
投稿: ルパン | 2009年8月 4日 (火) 14:59
<ルパンさん>
こんばんは.コメントありがとうございます.
そのようにおっしゃって下さる方がおられることを知って心強い限りです.
最近ようやく文科省も医学部の定員増を始めましたが,効果がでるまで10年かかります.その間の対策をいかにするか考えていく必要がありますね.
投稿: ビザ皇帝 | 2009年8月 5日 (水) 16:16