救急医療の実情
先日の岩手日報に興味深い記事が出ていた.
地域の救急医療に携わる医師の悲惨な実態が伺える記事である.実は私も以前,記事の病院に勤務した経験があるのだが,ここの救急当直は本当に辛かった(過去に自分が勤務した全ての病院の当直の中で,ここが一番きつかったと思う).当直の夜はほとんど寝られず(連続3時間の睡眠がとれれば奇跡である),徹夜明けで翌日の診察や検査に入るのが当たり前であった.一応,当直明けは半日勤務で帰っていいことになっているらしいのだが,これには「業務に差し支えがなければ」という但し書きが付いており,実際には医師充足率の低い病院では,業務に支障がないはずはないため,事実上空文化しているのだった.
こういう状況であるから,件の病院に勤務していたときは,当直の数日前から体調のピークが当直日の夕方に来るように調整していたものである(プロ野球のローテーションピッチャーみたいだ 笑).
病気は時と場所を選ばないから,24時間対応可能な救急センターは必要である.私も自分で希望して今の仕事をやっているから,たとえ深夜でも重症な人がやってくれば,それなりに対応している.人間の体とは不思議なもので,たとえ疲労の極にあっても,目の前に重症の人がいると,交感神経系が亢進して体内にカテコラミンが分泌され,体と頭がシャキッとなるのである.逆に夜中の3時に「何となくのどが痛いんです」なんて人が来ると,一気に疲労度が増すのであった(一番疲労度が増すのは,夜中に「眠れないんです」とやってくる人.こんな人が来ると「私の睡眠時間を奪いやがって」と心の中で思いながら,表情はいつも通りで「ああ、そうですか」と対応しているのである).
世の中には救急外来を24時間営業のコンビニ病院と勘違いしている人もいる.岩手日報の記事にも出ていたが,「夜間の方が待ち時間が短いから」といった困った理由で救急に来る人もいるのである(風邪引きの人が朝8時15分に救急外来を受診するかたわらで,本当に具合の悪い人が朝7時から一般外来の受付に診察券を出して9時の診察開始を待っているという,シャレにならない話もある).
夜間外来はあくまで救命が任務であり,生命に異状がなければ,原因究明等は翌日の一般診療で行うのが原則である.このため,夜間の受診者には内服薬などは1日分しか出さず,必ず翌日の外来を受診するように指導するのだが,コンビニ病院だと思っている人には理解できないらしく,「なんで1日分しかよこさないんだ」とゴネる輩もいるのだった(特に中年のオッサンにこの手の人が多い気がする).
もっとも症状の強い・弱いが必ずしも,疾患の重症度と相関しない場合もあるし,重症なのかどうかの判断は一般の人にはできないから,「あまり救急外来を受診しないように」などと言うつもりはない.ただ医師も人間であり夜中にたたき起こされると,時には不機嫌になっていることもある.こんな時に「いやー先生,こんな遅くに申し訳ないです」とひとこと言ってもらえると,「そんなことないですよ」とこちらも気分良く診察に入れる.逆に「24時間医者にかかるのは住民の権利だ」みたいな態度でこられると不機嫌度は倍増する.
お互いに嫌な思いをしないためにも,ちょっとした心遣いが大切だと感じている.
追) 今の勤務地にも救急外来はあり,もちろんそれなりに忙しいのだが,記事の病院と比べると夜間外来で2/3,救急車の数は半分くらいじゃないかと思う.人口規模も似たようなものであり,特に当地の住民がより健康だというわけでもないだろうから,やはりこれは住民の受診志向の差なのだろうか.
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