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2007年2月28日 (水)

ピック病

 先日2月26日の朝日新聞朝刊のトップ記事は”ピック病”に関する話題であった.ピック病とは認知症のひとつであり,医者の世界でも,神経内科医と精神科医以外にはあまり知られていない病気である.

 若年認知症「ピック病」で万引き 厚労省が調査

 記事は万引きをして懲戒処分を受けた公務員が,その後ピック病と診断されていたことがわかり,全国で同様のケースが確認されているというものである.

 認知症には様々な種類があり,日本で多く見られるものとしては脳血管障害(脳梗塞や脳内出血など)の後遺症による”脳血管性認知症”と,進行性に大脳が萎縮することによって起こる”アルツハイマー病”が有名である.”ピック病”は,進行性に大脳が萎縮していくという点ではアルツハイマー病と共通だが,こちらは主として前頭葉と側頭葉が萎縮していくのが特徴だ(その他の認知症として,幻視が前面に出て,手足の運動障害も合併するレヴィ小体病なんてのもある).

 病初期に物忘れよりも,性格変化や行動異常(非社会的な行動,周囲への無配慮など)が前面に出るのが特徴である(アルツハイマーの場合,病初期には物忘れが見られるが,対外的にはニコニコして人当たりがいいのが特徴.このため,普段一緒に住んでいる家族は認知症に気付いても,たまにしか会わない親戚などは正常と認識しているケースも多く,親族内トラブルの原因になる).記事に出ていた万引きも初期症状として有名であり,その他,急に借金しまくってマンションをたくさん買うなどということも見られる.

 ピック病の頻度については,アルツハイマー病よりはかなり少ないと考えられているが,実際には正しく診断されていないケースも多いだろうことから,決して稀な疾患ではないと思われる(昔の医学書には稀な疾患と書かれていた).ピック病は残念ながら今の医学では特異的な治療方法はない.しかし正しく診断することによって,周囲の理解とサポート体制を築くことが可能となるため,積極的に病気であることを見つけることが重要である(近年ではピック病はFTD: Frontotemporal dementia という概念で語られることが多い).

Pick4 ピック病のMRI画像(フレアー画像水平断).側頭葉と前頭葉が著明に萎縮し,脳回(脳のシワ)がナイフのようにトンガっています(knife edge atrophy).

Pick5 同じくピック病のMRI T2強調画像冠状断.

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