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2006年11月16日 (木)

モーツァルトと坂本龍馬

 地元出身の有名人を使って地域振興を図るのは,世の東西を問わない.私の地元岩手では,宮沢賢治石川啄木が良く引っ張り出される.隣県の仙台市では伊達政宗が,東京の日野市では土方歳三が,鳥取県境港市ではゲゲゲの鬼太郎(水木しげる氏)が有名だ.しかし,その中でも高知の坂本龍馬ほど,地元・訪問客の双方から熱く語られる人物はいないだろう.

 高知を訪れたことがある人にはわかると思うが,高知における坂本龍馬の存在は絶大である.市内,特に桂浜に行くと龍馬の銅像がデンと構えており,一方土産物屋はひたすら,「龍馬,龍馬,龍馬」のオンパレードである.キャラクターグッズもTシャツや携帯ストラップから,ビールに至るまでなんでもある.おまけに空港まで“高知龍馬空港”と命名されており,高知人の龍馬にかける思いの強さが偲ばれる.おそらく,地元民の期待の高さでは日本一ではないかと思う(2006年は大河ドラマに山内一豊が取り上げられたこともあり,高知城などでは,一豊やその妻千代も露出しているが,存在感としては,坂本龍馬の足もとにも及ばない.個人的には一豊より,幕末の土佐藩主山内容堂のほうに関心がある).Ryouma2_1

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桂浜の土産物屋はこの通り,「龍馬!龍馬!龍馬!」である.左の写真にある龍馬ラーメン・うどんって一体….

海外においても状況は似たようなもので,お隣の中国の成都では三国志の英雄,関羽が祭られている.また.泰山の近くでは,孔子の子孫が観光客相手に,論語の一節を色紙に書いて売るという商売をやっているらしい(これは,作家の棟田博氏の著作,続・陸軍よもやま物語に出てくるエピソードである).

ヨーロッパではドイツのライプツィヒのバッハや,同じくドイツのハーメルンでの笛吹き男(現地ではネズミ捕り男というそうです.ねずみ男ではありません 笑)などが知られているが,何といっても凄いのは,ザルツブルグのモーツァルトである.特に今年は生誕250年ということで,ザルツブルグの街は完全にモーツァルト一色になっている(10月に放送された,NHKの“毎日モーツァルト”の特番でも,ザルツブルグを訪ねた山本耕史が「それにしても,どこを見渡しても“モーツァルト”,“モーツァルト”」と感心しているのか,呆れているのかよくわからないことを言っていた.私も今年の夏ザルツブルグを訪れたが,やはり街中が“モーツァルト”,“モーツァルト”であったのは強く印象に残っている(空港名まで“ザルツブルグW.A.モーツァルト空港”であり,この熱の入れようは高知の坂本龍馬そっくりだ).

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今年は街中が「モーツァルト!モーツァルト!モーツァルト」です.ついにはこんなTシャツまで登場(笑).

そんなわけで,東西の2大ご当地スターともいうべき坂本龍馬とモーツァルトであるが,意外な共通点がある.それは,「故郷を捨てて他所で活躍した」という点である(その他,お姉さんの存在も).

モーツァルトは父とともに,生地ザルツブルグの宮廷楽員として働いていたが,雇い主である大司教コロレドと喧嘩別れして,ウィーンに移り住み,フリーの音楽家として数々の名曲を世に送り出した.そして生涯を通じて故郷に帰ったことは数えるほどしかなかった.一方ザルツブルグ側でも,モーツァルトの死後しばらくまで,彼の存在をあえて無視していた様子が見られる(モーツァルトがウィーンで脚光を浴びている事実は伝えられているはずだが……).モーツァルト自身もザルツブルグに対する思い入れはあまりなかったと伝えられている.

 翻って坂本龍馬であるが,彼は土佐藩の郷士身分(下級武士,坂本家は武士ではあるが,生活のため商売もやっていたらしい)で,一時は武市半平太の土佐勤皇党に所属していたこともあったが,一念発起し何と脱藩して江戸に出たのであった(やはり土佐藩という小さな枠組みのなかではなにもできないと思ったのだろうか).江戸に出た龍馬は,勝海舟の弟子になって海軍の創設に奔走し,後には亀山社中,海援隊を作って海運業に活躍した(亀山社中は日本最初の商社といわれる).政治的にも薩長同盟の斡旋や船中八策による,大政奉還への流れを作るなど,幕末維新史に果たした役割はきわめて大きい.

 こんな龍馬であるが,ふるさと土佐への思いはどうだったのだろうか.脱藩後も土佐藩士との付き合いも多かったから,モーツァルトのように冷ややかだったとは考えにくいが,やはりふるさと以上の思い入れはなかったように感じられる.モーツァルトがザルツブルグの枠に収まりきらなかったように,龍馬もまた土佐という枠を超えて,日本というより大きな枠で動いていたからである.

 かくして今日も,東西のご当地スターの故郷には多くの観光客が訪れていると思われる(当の二人は地元での盛り上がりをどう感じているのだろうか?).

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東西の2大ご当地スター(ザルツブルグのモーツァルト像と高知桂浜の坂本龍馬像).

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