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2006年11月10日 (金)

介護認定審査会

 日本は急速に高齢化社会に突入しているといわれる.一般に65歳以上を高齢者と呼ぶが,全人口に占める高齢者の割合(高齢化率)が,平成2年には12%だったのが,平成16年には19%にまで上昇しているからである.出生率が低下している一方で,平均寿命が依然として高い水準にあるのだから当たり前であるが,これに伴い介護支援の充実などが,これからの日本社会が取り組むべき課題ともいわれている.ただ高齢者が増えたといっても,昔の65歳と今の65歳を同列に扱うのもナンセンスである.私が幼稚園から小学生頃の65歳といえば,顔に皺が寄り,腰が曲がって杖をついてやっと歩く,いわゆる老人だったが,今の65歳はシャキシャキして元気な人が多い.仕事に疲れた50代よりもむしろ若く見えるくらいだ.私の母親も今年で65歳になったが,とても高齢者には見えない.

 しかし,いくら若い高齢者(矛盾した言い方だなぁ)が増えたとはいえ,人間年をとれば,あちこちに不自由が出てくるのは仕方ない.しかも,昔のような大家族制が崩壊し,核家族化が進んだ結果,家庭での介護力が大幅に低下している.従来なら大勢の家族で協力して介護していたようなケースが,介護を受けられないという”介護難民”が出現したのである.このままではイカンというわけで国(厚生労働省)が立ち上げたのが,介護保険制度である.

 要するに,従来のように大家族での介護が困難になったため,「各種サービスを利用した介護を保険でやりましょう.しかも従来の,行政側のお仕着せではない,利用者自身が望む介護をやりましょう」という触れ込みで始まったのである.保険者は市町村で,被保険者は40歳以上の人全て,利用は原則として65歳以上からだが,脳卒中などの特定の疾患の場合は40歳以上から利用できる.

 国としてはこの制度によって,介護問題の解決のみならず,医療費の抑制,雇用の創出(介護サービス事業への新規参入業者による)など多くのメリットが生まれると目論んでいたようだ.特に医療費の抑制は国にとっては重要で,当時全国の病院には,入院治療の必要がないのに,退院先がないために長期に入院している,いわゆる”社会的入院”の事例が沢山あったからである.

 社会的入院の多くは,脳卒中などで重度の後遺障害を抱えてしまい,介護がなければ生活できないにもかかわらず,一人暮らしであるとか,家族がいても年老いた配偶者が一人きりとか,中には家族が介護に全く非協力的であるとか(医者をやっていると,時にこういう事例に遭遇して泣きたくなる)いうケースである.また一方では,身体的には特に問題なくても,「家が寒いから」という理由で入院している高齢者もいた(さすがに21世紀に入ってからはなくなったと思うが,私が医者になった当時は,地方の病院や都市部の小病院にはこういう患者も入院していた(我々はこういう人達を越冬隊と呼んでいた).

 厚労相の頭の中ではバラ色だったであろう介護保険だが,早くもほころびが目立ち始めている.利用者の予想を超える伸びによる,保険自体の赤字である.最もこれは,保険を創めた時からわかっていた事である(保険料を払っているのだから,利用できるなら利用しようと考えるのが人情である.なかには全く介護を必要としない状態にもかかわらず,申請してくる人もいる).このため国は,当初の理念はどこへやら,「今までの介護保険で,過剰に介護したことで,かえって被介護者の生活能力を低下させてしまった(手伝いすぎて,頑張れば自分でできるのに,やらなくなってしまったのだという理屈)」,「これからは,なるべく要介護状態にならないように予防を図っていくことが重要だ」などと言い出したのである.一面もっともな理屈に聞こえるが,我々現場の人間から見ると利用者のためと言いつつも,実際には保険給付金を安くしたいという魂胆がミエミエで,ゲンナリするのである.

 介護保険を受けるためには,利用希望者が市町村に申請して,役場の人(調査員)が希望者を訪問し,その人が今どういう状態にあるのかを評価する(聞き取り調査).その一方,希望者の主治医がその人が医学的にどういう状態にあるか意見書(主治医意見書)を書く.その聞き取り調査結果と主治医意見書を勘案して,最終的にその人の介護度(介護の必要がない非該当から最重度の要介護5まで8段階ある)を決めるのが,介護認定審査会である.委員には,医師,薬剤師,保健婦など医療・福祉に関わる人で,地方自治体の委託を受けた地域の有識者が当たるそうであるが,実は私も委員である(私が有識者かぁ 笑).

 介護度を審査で決めるといえば聞こえはいいが,実は我々審査委員が介入する部分は意外に少ないのである.要介護については,聞き取り調査結果と主治医意見書のデータをコンピューターに入力して(どんなソフトを使っているのかは不明),機械的にはじき出された介護度をベースに議論していくのである.その際,機械がはじき出した介護度を変更するにはそれなりの理由が必要なのである(尤も国側からすれば,医者や保健婦は常に患者さんに接しているために,どうしても情に走ってしまう傾向があるため,そんな連中にフリーハンドを与えたら,介護度が不必要に重くなると危惧しているのだろうが).

 それゆえ,審査会で我々は,機械によって決められた介護判定と格闘しているのである.現在の介護保険はアルツハイマー病などの認知症に辛く,認知症の人はどんなに問題行動があって家族が困っていても介護度は低くなる傾向にある(実際に,足腰がピンピンしていていて,あちこち徘徊し,問題行動が多い要介護1のアルツハイマー病の人を,リウマチで手足が痛く,歩行も不自由だが頭はしっかりしている要介護2の配偶者が介護しているという,笑えない話もある).

 昨夜11月10日もこの介護認定審査会が行われたのであった.

Shinsakai これが介護認定審査会の書類です.この日は合計39件,約1時間の議論でした.

 

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