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2006年10月23日 (月)

本州の寒極 ”薮川”

 先週末は講演会やら仕事がらみの会合があり盛岡市にいた.10月21日の昼にちょっと空き時間ができたため出向いたのが,盛岡の北東30kmにある薮川である.

 実はこの薮川,一部の人の間では有名な場所である.それは,本州で最も寒い場所(寒極)という点で.なにせ盛岡市内(盛岡自体が冬寒く,東北六県の県庁所在地で一番寒い)より10℃は低いといわれているのだ.一般には緯度が高くなるほど寒くなると考えられているが,気温を決める要因には様々なものがあり,緯度だけで決まるわけではない.たとえば南半球の寒極は南極であるが,北半球のそれは北極ではない.北半球でもっとも寒いところは東シベリアの高原地帯(北緯60~70度付近)なのである.北極は,緯度は高いものの海であり,主として大西洋からやってくる海流の影響で意外に寒くはないのである(南極の冬が氷点下80℃位に達するのに対して,北極は氷点下30℃位にしかならない).これに対して東シベリアの高原地帯は,冬は実に氷点下60~70℃に達する極寒の地である(ベルホヤンスクが特に有名で,我が家の旅行先でも毎年候補にあがるのだが,どうやって行くのかよくわからず,未だに行けていない 笑)

 ある場所の気温を決める要因は様々であるが,主な要因を挙げると

① 緯度が高いほど寒い

 理由) 太陽が低くなるため,単位面積当たりの日照量が少なくなるから.

② 海に近いほど寒暖差が小さくなる(反対に海から遠いと寒暖差が大きくなる)

 理由) 水は熱しにくく,冷めにくい性質(比熱が大きい)があるため.

③ 暖流の側は暖かい(寒流の側は涼しい)

 理由) 自明

④ 曇っていると昼夜の寒暖差が小さい(晴天だと昼夜の寒暖差が大きくなる)

 理由) 夜間晴天だと地上の熱が宇宙に逃げていくため気温が下がる(放射冷却)

⑤ 標高が高いほど気温は低い

 理由) 地面から受ける熱(反射熱,地熱など)が少なく,大気も薄くなるから.

 この条件を当てはめて考えると,北極は高緯度だが海であり標高が低い.大西洋からの暖流が流れ込んでいる.また冬季は天候が悪く曇りの日が多いため,放射冷却も起こりにくい.結局,意外と気温は下がらないのである.

 これに対して東シベリアのベルホヤンスクは高原地帯であり標高が高い.海から隔絶しており昼夜の寒暖差が非常に大きい.冬季も晴天が多く,夜間の放射冷却が起こりやすい.本来晴天であれば日中には気温が上がるのだが,ベルホヤンスクは北緯66度と高緯度のため,冬季の日照時間が極めて少なく(昼が極端に短い),日中の気温も上がらない.かくして気温を上げる要素がほとんどないのに,気温を下げる要素が非常に多く,北半球の寒極となっているのである.

 さて,振り返って我が薮川である.ここは北上山地の中にある高原地帯で,当然標高は高い.周囲を山に囲まれており,海の影響が少ない.冬季でも意外に晴天が多い(近くに岩洞湖という人造湖があり,冬季はワカサギ釣りで有名な場所でもある).つまりはベルホヤンスクとよく似た環境なのである.これが,当地が本州の寒極となっている理由である(昔,岩手県を揶揄する言い方として”日本のチベット”というのがあったが,地理学的には”日本のシベリア”と言った方が実勢に近いかもしれない).ちなみに日本の寒極はというと,一番北にある稚内ではなく,旭川と稚内の中間にある名寄市(実は管理人の生まれた所.よほど寒いところに縁があるらしい 笑)のちょっと西にある朱鞠内湖(人造湖)付近である.私の父親が昔,「自分は氷点下40℃を経験したことがある」と自慢していたのをよく覚えている.

Gandouko 秋の岩洞湖.すでに紅葉も終盤の様相です.冬にはワカサギ釣りで賑わいます.

 そんな薮川の名物が,”そば”である.元々蕎麦は痩せた土地でも育つため,稲作には厳しい岩手県北部でも盛んに栽培されている.ここ薮川でも,蕎麦なら十分に栽培可能である.”薮川そば”の店は盛岡から岩泉方面に向かう国道455号線沿いにある.手打ちの蕎麦は歯ごたえ抜群で旨いのだった(当地で採れる舞茸の天ぷらもいい).

Yabukawasoba2 薮川そばのお店,名前もズバリ”藪川そば”

Yabukawasoba1 これはざるそばです.もちろん温かいそばもあります.

 尚この薮川,以前は玉山村薮川だったが,平成の大合併で盛岡市薮川になった.

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